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鈴木牧場

鈴木 敏文さん

#38「日本一の循環型酪農『鈴木牧場』~サスティナブルな町広尾町を目指して~」

十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!

日本初の生乳・牛肉・鶏卵の3つのJASオーガニック認証と日本グラスフェッド規格を取得し、牛の健康を第一に、オーガニックにこだわった牛乳を生産する鈴木牧場代表の鈴木敏文さんにお話を伺いました!

鈴木牧場 鈴木 敏文さん

プロフィール
鈴木 敏文さん(すずき としふみ) 鈴木牧場代表

北海道広尾町鈴木牧場の4代目代表。地球に優しい循環型酪農を目指す鈴木牧場は、オーガニック牧草や水、塩を使い牛を育てている。牛の健康と幸せを第一に考え、化学肥料やホルモン剤などを一切使わない自然な方法の酪農に取り組み、日本で初めて生乳・牛肉・鶏卵の3つのJASオーガニック認証と日本グラスフェッド規格を取得。グラスフェッドビーフや十勝の塩などの商品を通じ、牧場から健康と幸せを提供している。

伝染病からの大改革。オーガニック牧場になった訳


――鈴木牧場はオーガニックな牧場経営で様々なメディアに取り上げられていますね。もともと環境意識の高い牧場だったのでしょうか?

(鈴木さん)鈴木牧場は曾祖父の代から続く牧場で、私で4代目です。約120頭の牛を飼育しており、生乳・牛肉・鶏卵の3つのJASオーガニック認証と日本で第一号のグラスフェット認証を取得しています。この方針の経営スタイルは私の代からで、父の代までは一般的な牧場経営をしており、化学肥料、農薬、配合飼料も使っていました。
 10~15年前の鈴木牧場は、経営こそ黒字でしたが、牧場内の疾病が多く毎日のように獣医さんを呼んでいました。おそらく、牛群全体の免疫力が落ちていたんだと思います。その結果2008年と2010年に当牧場で家畜伝染病のサルモネラが発生してしまいました。サルモネラは現在も特効薬が無く、淘汰でしか解決しない病気で、罪のない牛を何十頭も淘汰することになってしまい、強く責任を感じました。
 伝染病が起きてしまったことについて、獣医師の妻に「抗生物質や飼料添加物に頼るのでなく、牛の生活を見直し予防的な飼育をすることが最大の治療になる」とアドバイスをもらったことが今のスタイルに変化したきっかけです。

――命と向き合った経験が経営スタイルを変えるきっかけになったんですね。その後、具体的にどのような改革に取り組まれたのでしょうか?

(鈴木さん)まず初めに、牛の健康のためには普段食べさせる物が重要だと考えました。牧場の周りにはたくさんの野生のシカがいますが、人に管理されていないのに毛並みも良く、アスリートのように筋肉質なんです。牛も同じ草食動物なのだからシカの生活に近づけることで健康になるのではないかと考えました。
 当時、鈴木牧場では堆肥を畑に還元しておらず、化学肥料などの無機物で牧草を育てていました。興味が湧いて、牧草地の牧草を食べてみたところ、苦くてえぐみがあり全く美味しくありませんでした。「えっ!うちの牛、こんなの食べてるの!?」と感じました。一方、林にあるイネ科牧草を食べてみると、美味しい青汁ような甘さがあることに気づきました。
 調べてみると土や微生物の影響が大きいことがわかりました。そこから、良い土づくりをしなければと思い、化学肥料を減らしていくことにしました。経営方針について父とはよく揉めましたが、説得の末、牧草の収量が減ったら元に戻すことを条件に化学肥料を三分の一減らし、堆肥を牧草地に還元させてもらいました。結果収量が変わらなかったので、翌年はさらに三分の一、その次の年はさらに三分の一と減らしていき最終的に化学肥料をゼロにしました。

――実際に食べるなんて凄いですね!化学肥料を減らした牧草を食べた牛にはどのような変化が見られたのでしょうか?

(鈴木さん)牛は、通常牧草だけでは餌を食べようとしないため、配合飼料が必要でしたが、オーガニックの牧草にしてからは、配合飼料無しでもよく食べるようになりました。それだけ美味しくなったんだと思います。結果、配合飼料を与える量も減らすことができオーガニック認証の基準に到達したわけです。
 しばらくすると、見るからに牛の顔つきや毛並みも良くなり良い状態だと感じていたのですが、ある時、興味が湧いてバルククーラーの牛乳を飲んでみました。実は私は酪農家なのに牛乳が苦手だったのですが、そんな私でも非常に美味しいと感動したんです。そこから、「餌からこだわった健康な牛の牛乳を自分で販売したい」「全国にこの味を届けたい」と強く思いオーガニック認証を取得しました。

オーガニックにかける鈴木牧場のこだわりと苦労


――ついにオーガニック認証を取得されたんですね。鈴木牧場は牧草だけでなく、牛に与える塩も手作りされていると伺いました。

(鈴木さん)そうなんです。牧草を主食とする乳用牛は、そのままでは塩分を摂取しにくいため、飼料に塩分を配合したり、「鉱塩」という固形飼料を与えたりして塩欠乏を防いでいます。その塩も広尾の海水からできればいいと思って始めました。
 製法を能登半島や伊豆半島の塩工房で学び、現在使っている窯は、伊豆半島の塩工房の窯を再現したものです。1トンの海水を入れ約5日煮詰めて塩を作ります。燃料に薪を使うことで遠赤外線効果により美味しい塩になるんです。
 海水は同じ広尾町音調津にある広尾漁協のウニ種苗センターから貰い、薪は家を解体した廃材や、漁協から使い終わった魚箱を貰い薪にしています。塩の製造過程で出る「にがり」は、畑のマグネシウム不足を補う目的で堆肥と一緒に散布しています。
 地域資源を使いながら牛の健康が良くなればと思い当初は台所から始めた塩づくりですが、人間用に販売するほどになりました。

鈴木牧場の塩釜(左上)は、魚箱等を薪に使用し(右上)、5日間煮詰めて塩を作る(左下)。煮詰めて出来上がった手作りの塩(右下)


――オーガニック・グラスフェット方式の牧場経営で大変な点は何ですか?また、何か工夫されていることはありますか?

(鈴木さん)乳牛は人間と同じように分娩しないと乳がでないので、畜産農家には絶対欠かせないホルモン剤が使えないことが一番大変ですね。ホルモン剤を使わないと人工授精をするための発情や繁殖成績が上手くいかないという考え方が一般的です。ホルモン剤や配合飼料に頼っていなかった時代もありますから、乳量は減りますが不可能ではないと考えています。
 一般的に牛一頭あたり1日30~33キロの乳が出ますが、他のグラスフェット方式でやっている農家は10キロ位であるのに対し、鈴木牧場では15~20キロくらいです。これは、1番牧草、2番牧草、3番牧草すべて早刈りでエネルギーとタンパク質などの栄養価の高い牧草を収穫しているため配合飼料並みに嗜好性と採食性が高いからです。また昼夜放牧により、生草の高栄養価とのびのび過ごしているためストレスなく過ごせているからだと思っています。

風通しがよく明るい雰囲気の牛舎。取材時も気持ちの良い風が吹き抜けていた。


鈴木牧場の挑戦 あたらしい酪農の形を生み出していく


――有機農業は、通常よりも手間やコストもかかり乳量も減ると仰っていました。それでも売り上げを生み出すためにどのようなことに取り組まれていますか?

(鈴木さん)実はこだわって作ったオーガニック牛乳を発売したいという思いから、2022年12月に完成した新牛舎に乳加工施設を併設しました。2023年の12月より、鈴木牧場のオーガニック牛乳として発売していく予定です。
 これまで全ての牛乳を農協に出荷していたので、売り上げを伸ばすためには飼育頭数を増やすか、コストを下げるしかありませんでしたが、これからは自ら販売できる手段を持つことで、自立した持続的な経営やモチベーションの向上に繋がっていくと思っています。初期投資や販路など勉強することは多いですが。手間暇かけた鈴木牧場の牛乳の味を多くの方に味わってほしいですからね。

鈴木牧場の搾乳室(左上)、搾乳した牛乳を溜めるバルククーラー(右上)、乳加工室(左下)はパイプで繋がっており、バルブを切り替えることで(右下)搾りたての牛乳を乳加工室へ直に送ることができる。


――鈴木さんは、今後どのようなことを目指していきたいですか?

(鈴木さん)実は牛の頭数を減らしていこうと考えています。今は、120頭中110頭が乳牛で、その内55頭から搾乳しています、将来的には搾乳頭数を30頭くらいにしたいんです。その分、自社製品の売上を拡大することで経営を安定化させたいです。外部要因に左右されず、自分の牧場の資源で安心安全なものを作っていきたい。少ない飼育頭数でありながら、しっかり稼げるスタイルを確立し、これから酪農をやろうとしている人のモデルになっていければと思っています。

――持続可能な酪農のロールモデルを目指されているのですね。今後鈴木さんのようなオーガニックに取り組む酪農家は増えていくのでしょうか?

(鈴木さん)オーガニックは大規模酪農よりも、中規模小規模経営のほうが向いていますが、オーガニックの生産者を増やすだけでなく、買ってもらえる仕組み作りも必要です。消費者が求めているかが大切で、それがないと売り先の奪い合いになるからです。ヨーロッパでは市民レベルでオーガニック食品を購入する意識が根付いており、一定の市場があります。「買い物は投票」とも言われますが、日本でも消費者の意識が変わってくることで、自ずと量を重視して生産している現在の酪農の姿から変わっていくと思います。実際にドイツでも、市民一人ひとりが、商品が作られるまでにどれだけ環境に影響を与えたかを意識するようになったことで、生産者の意識や農業形態が変わっていったそうです。
 今後は、オーガニックを盛り上げたい気持ちがある様々な職種の方と協力しながら、十勝の広尾町からオーガニック市場の拡大に取り組んでいきたいと思っています。
 最近、e-Combuという小樽商科大学の学生と広尾町の地域おこし協力隊の二人が、海岸に打ち上げられる広尾町の昆布を飼料添加物に加工し、温室効果ガスの原因となるメタンガスを含む牛のげっぷを抑制しようという取り組みを進めています。私のオーガニックの動きと併せて、広尾町がサスティナブルな町だと認知されるようになったら嬉しいです。


編集後記
鈴木さんの挑まれている「小規模でも持続可能な牧場経営」は、少子高齢化が進み人口減少が避けられない地方都市にとって新たな選択肢になっていくように感じました。グラスフェットだけでなく価値を高めた牛乳の新たな加工方法や独自の流通方法の開発などさまざまな挑戦を続ける鈴木牧場さん。これからも、鈴木さんの取り組みを、LANDも応援していきます!!

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協力

帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会


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