十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
清水町御影で小麦や豆類などを生産する畑作農家SAWAYAMA FARMの澤山あずささんに、今年からチャレンジしている「陸稲(おかぼ)=畑で米を栽培すること」や、スクール事業、シードバンクの他、自然栽培の取り組みなどについて伺いました。
株式会社SAWAYAMA FARM 澤山あずささん
プロフィール
澤山あずささん(さわやま あずさ) 取締役
株式会社SAWAYAMA FARM取締役。1990年生まれ。新得町出身。高校卒業後、JA木野(木野農業共同組合)に入職。2014年、結婚・妊娠を機に退職して夫・直樹さんの家業であるSAWAYAMA FARMに就農。2023年法人化し、現職。
生産方法の選択肢を増やし「持続可能な農業」を見出す
――現在、SAWAYAMA FARMで栽培している品目には、どんなものがありますか。
(澤山さん)現在は、50〜60品目ほどを育てていて、比重が多いのは小麦と豆です。夫の代(5代目)になってからブロッコリーやハクサイ、ニンニクなどの野菜の栽培も手掛けるようになりました。自然栽培を始めたのは2011年で、2013年に有機JAS認証を受けました。
栽培している作物
――基本的なことからお聞きしたいのですが、澤山さんがされている自然栽培と、有機栽培、いわゆる「オーガニック」と呼ばれる栽培方法、それぞれの特徴を教えてください。
(澤山さん)
オーガニックは、化学肥料や化学農薬など化学物質の使用による環境負荷を軽減することを目指すものです。有機JAS法に定められた天然物由来の農薬や有機肥料などを使用することが出来ます。
自然栽培は、農薬・肥料を使用せず、圃場外から何も持ち込まずに植物(作物)の持つ力を引き出せるよう、除草や耕作など人間が最低限手を掛けて『栽培』を成り立たせます。
これは、除草や耕作をせず、自然の力に任せた『自然農(法)』とも少し異なります。
ただ、自然栽培の認証制度というものは今のところ存在しないので、流通の段階で消費者に対しても分かりやすく、明確な付加価値をもたせるために第三者機関の認証(有機JAS認証)を取得したという経緯があります。
――では、具体的にはどのように作物を育てているのでしょうか。
(澤山さん)私たちがいま実践している《オーガニック小麦》はむしろ「超省略化の極み」といえます。小麦は9月頃に種をまいて収穫は翌年の7月頃ですが、それまで畑に入ることはありません。
では、その間の雑草はどうするかというと、小麦を播種するときに白クローバーを一緒にまきます。白クローバーは縦に伸びるのではなく、横に這うように生長するので、他の雑草を抑えてくれます。また、白クローバーはマメ科のため、窒素固定ができ土壌の肥沃化にも貢献してくれます。
同じように、害虫が発生した場合は、益虫に抑えてもらいます。益虫のすみかを整えるために益虫が好む植物を植えて害虫にとってのバリアを作る……こんなふうに自然の性質を理解した上で、少ない労力でも完結できるような方法で畑を回しています。
――栽培方法は、澤山さんがご自身で文献などを調べて実践されていったのですか。
(澤山さん)そうですね。日本では、先行事例があまりないので海外のオーガニック先進国の情報を自分で取りにいっています。面積が大きく、オーガニックをなりわいにしている先進国の事例が、実際に十勝でも実践可能なのかを繰り返し実験しました。その結果が4〜5年ほど前から実を結びはじめ、だんだんと注目されるようになっていきました。
――海外の事例までも調べて栽培方法を模索していくのは、かなりのご苦労もあったかと思いますが、どんな思いで取り組んでいますか?
(澤山さん)現状、SAWAYAMA FARMでは慣行栽培、オーガニック栽培、自然栽培と3つの栽培方法全てを取り入れて栽培を行っていますが、日本の大部分の農地で行われている慣行栽培だけに頼らない持続的な農業を目指したいという思いがあります。
現状、国内で使用されている化学肥料や農薬は海外に依存していることが多く、それらに使われている資源は限られています。私たちの農場内で循環可能な真の持続的な農業を見出していきたいと考えています。そのためにはどんな方法があるのかを探り、選択肢を増やして、次世代へ研究結果を引き渡していきたいという思いがあります。
十勝で米を育てる。しかも、田んぼではなく畑で。
ーーここからは、澤山さんが2024年からチャレンジされている「陸稲(おかぼ)」についてお伺いします。水田ではなく、畑で米を育てるという取り組みですが、これを始めたきっかけについて教えてください。
(澤山さん)食料自給率が1,200%を超える十勝ですが、農産物ごとの割合でいうと米は非常に少ないです。
そこで、2024年の春、ナチュラルファームスクール事業の一環で「コメニティ(米+コミュニティの造語)」というプロジェクトを立ち上げました。(※ナチュラルファームスクールについては後述)
「あたりまえをありがとうに」をコンセプトに、日本人になじみ深い米を十勝でも育てて、お茶碗一杯分になるまでにはどんな流れがあるのかを、消費者である皆さんと分かち合えたらという思いで立ち上げました。
コメニティの集合写真
ーー実際に収穫するまでの具体的なプロセスを教えてください。
(澤山さん)北海道は冬が長いので、基本的に畑1枚に対して1回しか挑戦ができませんが、1年間でどれだけデータを集められるかが肝になってきます。今年は同圃場で4区画に分けて『きたくりん』と『ななつぼし』を育苗した区画、直播区画にそれぞれ分けました。結果的に25アール(2,500平方メートル)で700キログラム以上の収穫があり、区画ごとによって収量も違いました。来年は今年の実証データを活かし、優秀だった区画面積を広くしていくことで、より収量が増えることを期待しています。
収穫している時の様子
ーー米作りについては、あずささんが情報を収集して実践し、データを取っていったのでしょうか。
(澤山さん)米は、全て私が担当しているのですが「自然栽培」「十勝で米」「しかも畑で」となると、そもそも前例がないので「正解はないんです」ということは当初からコメニティに参加する皆さんに伝えています。
畑では、手で収穫する箇所もあれば、機械(コンバイン)で収穫するところもありました。「機械で収穫できるのになぜわざわざ手で?」という質問もありましたが、答えは「楽しいから!」それに尽きました。
省略化を求めて生産性を高めることを目的としていませんでしたし、この米作りにおいては、プロセスを共有することが一番の目的です。「誰もやっていないようなことをしているのに、私が機械で片付けてしまったら誰もそれを見ずに終わるんだよ!こんなにおもしろいことは皆で分かち合おうよ!」と(笑)
正解がないぶん、自由なんです。だからこそ、誰でも来ることができるし、私たちがお給料を払っているわけでもない。対価として米はお渡ししますが、それだけでは消費者と生産者の関係性は従来のままです。そうではなくて、米作りの過程も含めて「全てを分かち合おう」「だから仲間になろう」と呼びかけたのは一つのキーポイントだったと思います。
しぜんとともにいきる。ナチュラルファームスクールという場所づくり。
ーーコメニティはナチュラルファームスクールの一環で立ち上げたというお話が出ましたが、改めてナチュラルファームスクールについて教えていただけますか。
(澤山さん)ナチュラルファームスクールは「しぜんとともにいきる」をテーマに子どもから大人までが参加できる自然学校(+α)という位置付けで2023年に立ち上げました。
このスクールには大きな柱が二つあり、一つはオーガニックや自然栽培で新規就業を目指す人たちの受け皿となる事業、もう一つは「共育」の事業です。こちらは「教えて育む」のではなく「共に育む」という漢字を充てていて、全世代を対象にしています。
「この時代に、この国に、人間として生を受けてよかったと心から思える生きる術を学べる場所」「全ての人が全力で生きることができる場所」を皆で分かちあい、心豊かに人生を送ってもらえればという思いで立ち上げました。
ーーコメ二ティの他に、どんなことをされているのでしょうか?
(澤山さん)2023年から月に一回程度イベントを開催しています。農家が主催するイベントなので、食育や収穫体験、修学旅行生の受け入れなどはもちろんしているのですが「生きる」をテーマにしているので、より深い根本のところを考えたり、自分の普段の暮らしによりフォーカスできるようなイベントができればと思っていました。
「共に育む」という点で、先住民文化や人権教育なども取り入れました。「アイヌの真の生きる術を学ぶ」というテーマで、アイヌの友人を講師に招き、厳しい冬を越すための知識や技術、自然を敬愛する心を学んだ上で、それらをどう現代の暮らしに落とし込めるか、自分自身には何ができるのかという視点を持ち帰ってもらうことを目的にしました。
過去に開催したイベントの様子
米の豊作をお祝いする新嘗祭(にいなめさい)というイベントでは、これもただ単純に「お米をありがたく頂く」のではなく、米ができるまでのプロセスまでも共有して自分自身に落とし込んでくれたら、より深くその人の心に残るかなと思っています。
新嘗祭の様子
一つ一つは点に見えても、実は線や面になって繋がっている。ナチュラルファームスクールの事業にはそんなイメージを描いています。
ーーナチュラルファームスクールに参加されるのはどのような方ですか?
(澤山さん)コメニティは、どんな方でも参加できるようにSNSで広く呼びかけているのですが、ナチュラルファームスクールのイベント自体は、公式LINEで告知をしています。
参加される方は、老若男女多岐に渡ります。0歳の子どもを抱えながら来るご家族や、札幌から来た学生、過去の体験談を共有してくださるおばあちゃんなど、多世代の方が交流できる場所になっています。今までは自分自身のテリトリーの中でやっていたことでも、ここに来れば仲間と一緒にすることができる。体験や、体感、横のつながりを作ることに価値を見出してくれているのは、ひとつ大きい価値だと感じています。
「全ての人を横並びで仲間として受け入れます」というのも私がいつも言っていることなのですが、ここに来ただけで豊かな人生が約束されているわけではありません。「生きづらさを感じるのであれば、生きたい社会をまず作ること。そのための仲間づくりにこのフィールドを活用してください」と伝えています。目に見える現物対価ではなく、言葉にするのもむずがゆい感覚を共有できている。とても温かくて、優しい風が流れる場所だなと自負しています。
農家自身が種を採る。「シードバンク」の実現に向けて
ーー今後の展望についてお伺いします。2025年には、敷地内に複合施設が建設される予定だと伺いました。それについて詳しく聞かせて頂けますか。
(澤山さん)「地球と体に優しい」をコンセプトにしたドーム型の複合施設を建設予定です。宿泊や飲食ができるほか、同敷地内には自家採種した種を貯蔵するシードバンクを作りたいと考えています。
「真の持続可能な農業」「循環型の農業」というのが私の目指すところなのですが、食料自給率1,200パーセントを誇るこの十勝ですら、野菜の種はほぼ輸入に頼っているというのが現状です。何かのタイミングで化学肥料や農薬どころか、種まで輸入がストップしてしまえば、どれだけ土地があっても生産ができなくなってしまいます。そうなってしまってからでは遅いので「今からみんなでこの問題について考えましょう」というのが、シードバンク建設の目的の一つです。
実際のところ、農家自身が「種を採る」というのは、経費や気候、それから種苗法などさまざまな問題があって、とてもハードルが高い分野ではあります。でも、できるかできないかはいったん置いて根源的なものに立ち返らないと、「他に依存した食」という構図はずっと変わりません。
まずは農業者自身が、そのことに焦点を当てて動いていくというのはもちろんですが、コメニティのように仲間を作り、その仲間たちと共に種採りを経験することで、改めて食について考えてもらうきっかけを作りたいと思っています。
ーー今年初挑戦した陸稲についても、今後の展望を教えてください。
(澤山さん)収量や面積を劇的に増やすということは現状考えてはいませんが、規模を大きくするとしても、手作業のところは残していきたいと思っています。
乾燥の工程で機械を使わずに「はざがけ」(束ねた稲を棒に架けて2週間ほど天日干しする)をしたりなど、陸稲のある一部分は「環境に配慮した区画」「他に依存していない区画」であればいいなと。
今後は、米についてもシードバンクで自家採種した種を使って品種を増やしていく予定です。今年は「ななつぼし」と「きたくりん」で自家増殖できる種は限られます。しかし、在来種の赤米などはF1種のような先祖返りの可能性もなく種苗法の規定も避けることができ、自家採種をして種をそのもののまま、未来へ繋いでいくことができます。さらに、繋いでいくことでその土地の風土や気候に順応して、どんどん強くなっていくんです。今、実際に準備している数粒を万倍にしていくことがこれからの目標です。
「これだけは続けたい」豆から始まった澤山社長のオーガニック栽培
ーー(最後に、あずささんの夫でSAWAYAMA FARM代表取締役の澤山直樹さんにもお話を聞くことができました)
2011年から自然栽培、オーガニック農業に取り組み、特に力を入れたことや大変だったことなどお聞かせください。
(澤山直樹さん)正直、私一人では無理だったと思います。妻と出会う前から始めてはいるのですが、当時は、170アール(17,000平方メートル)の一枚の畑で豆しかできなかったんです。豆と緑肥を交互作でやっていましたが、収量が伸びずこれでは続かないのではという不安もありました。
有機栽培として成り立たせるには、2年間の転換期間を設ける必要があります。その2年間は収入的にも難しいところがあり、踏み出すにも勇気が必要でした。
両親からは「もう辞めたら」と言われたこともありましたが「これだけはやりたい」という思いもあり、ある程度収量が取れるようになってきたところで私へ経営移譲するタイミングが来たので、それからはさらに本腰を入れてやっていくようになりました。
妻が有機に対してすごく力を入れてくれたのと、発信力もあって、いろいろな実践者や業者の方とも繋がり、アドバイスを頂きながら収量を増やす方法を実践していきました。そうやって、少しずつ、面積も増え、収量も増え、需要も増えていったという印象です。
(澤山あずささん)今はありがたいことに多くの取引先からお声がけいただいており、供給が追いついていない状態です。オーガニック農業に関心を持つ農家さんが増えれば、この需要に答えるスピードも早くなっていくのではないかと考えています。そのために、私たちも視察を受け入れ、失敗談も含めて、私たちの技術や情報をオープンにお伝えし、少しでも農業の選択肢が広がるよう共に取り組んでいきたいと思っています。
ーー本日は、たくさんお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、十勝の皆さんへメッセージをお願いします。
(澤山あずささん)私たちは、農業を営んでいるだけではなく、コミュニティやスクールも運営してイベントも定期的に開催しています。食を作っていくのは農家だけでありません。ぜひ、消費者の皆さんと一緒に食を作っていけたらいいなと思っていますので、ぜひ皆さん仲間になってください!
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さわやま農場インスタグラム
協力
帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会
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