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株式会社しかおい水素ファーム

(左)末長純也、(右)野口浩さん

#57「家畜ふん尿から始まるエネルギー革命!?革新を牽引するしかおい水素ファーム」

十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
株式会社しかおい水素ファームは、十勝・鹿追町でカーボンニュートラルな社会実現に向けた大胆な挑戦を進めています。日本で唯一、家畜ふん尿由来のバイオガスを原料とした水素生産に成功した同社の物語は、環境とエネルギーの未来を再考させるもの。同社の末永代表取締役社長と野口代表取締役副社長にインタビューしました。

株式会社しかおい水素ファーム (左)末長純也、(右)野口浩さん

プロフィール
(左)末長純也、(右)野口浩さん(すえながじゅんや、のぐちひろし)

末長純也 | 株式会社しかおい水素ファーム 代表取締役社長
1970年生まれ。岡山県岡山市出身。神戸大学工学部卒。1994年に大同ほくさん(現エア・ウォーター)入社。2023からグリーンイノベーションユニット長として従事。2023年に株式会社しかおい水素ファームの代表取締役社長に就任。

野口 浩 | 株式会社しかおい水素ファーム 代表取締役副社長
1963年生まれ。神奈川県横浜市出身。1988年に日本大学大学院を修了後、鹿島建設に入社。開発事業本部で30年以上従事。2023年から環境本部に移動し、同年に株式会社しかおい水素ファームの代表取締役副社長に就任。

環境と共生する社会を目指して

──代表取締役社長の末長さんは、関西ご出身で長くエア・ウォーターの研究部門だったと伺っておりますが、改めてご経歴について教えてください。

(末長さん)1994年、神戸大学工学部を卒業後、大同ほくさん(現・エア・ウォーター)に入社し、研究部門でキャリアをスタートしました。ここで28年にわたり、空気からガスを生成する技術の開発に従事しています。現在は、新たにできたグリーンイノベーションユニットのユニット長を務めており、2021年度からは環境省の補助事業を活用し、液化バイオメタンの生成に取り組んでいます。このプロジェクトでは、大樹町の酪農家からのふん尿を使用してバイオガスを抽出し、その中のメタンを回収して液化バイオメタンに加工しています。これは、新たなバイオ由来のエネルギーとしての製品化を目指した実証事業で、2023年度まで行われ、2024年度からの事業化を目指しています。また、液化バイオメタンはロケットの燃料としても使用される予定で、ロケットの新たな燃料源としても注目を集めています。
また、2023年からしかおい水素ファーム社の代表取締役に就任し現在に至ります。


──代表取締役副社長の野口さんについても、プロフィールを伺ってもよろしいでしょうか。
(野口さん)日本大学大学院を修了後、鹿島建設に入社し、開発事業本部で30年以上デベロッパーとして従事してきました。2023年からは環境本部に異動し、脱炭素戦略や現場で排出される廃棄物の資源循環、さらに太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーへの投資事業も担当しています。元々は環境経営とは異なる不動産開発分野の業務に従事していましたが、環境ビジネスへの投資経験があったことから、2023年からしかおい水素ファームにも所属し、環境ビジネスへの事業運営を行っています。



家畜ふん尿由来の水素生成に挑戦

──2015年度から環境省の補助事業を活用しながら水素の利用を進める実証事業を行われてきたということですが、その実証事業ついて詳しく伺えますか?また、しかおい水素ファーム社ができた背景についても教えてください。

(末長さん)バイオガスの利用促進について、2015年より前にすでにバイオガスを用いた売電活動が行われていました。その後、売電以外の方法でバイオガスの価値をどのように向上させるかということが国内でも模索されていたんです。そんな中、家畜のふん尿を活用したバイオガスから水素を生成し利用する手法が、政府の主導で推進されるようになりました。
そこで2015年度から、エアウォーター北海道、鹿島建設をはじめとする4社が環境省の補助事業を活用し、北海道・十勝の鹿追町で実証事業を開始しました。このプロジェクトは、酪農からの家畜ふん尿の処理という地域課題とバイオガスから作られる水素を活用するというもので、当初5年間の計画で進められました。実証事業の一環として水素ステーションが設置され、その水素はトヨタの燃料電池車「MIRAI」や燃料電池フォークリフトなどの燃料として利用されています。


(末長さん)これにより、地域内で生成された水素を実際に利用する環境が整えられたのです。
また、実証事業は当初5年間を予定していましたが、2年延長し、2021年度まで行っていました。そして実証事業が終了する2022年度から、実証事業を本格的に事業化するため、エア・ウォーター北海道と鹿島建設の2社で「しかおい水素ファーム」を設立しました。


──現在注目を集める水素の可能性について教えてください。
(末長さん)水素はいろいろな方法で製造することが可能ですが、我々は家畜のふん尿から水素を製造しており、国内で自給自足できるエネルギーであるということが最大の特徴です。さらには先ほども述べたトヨタ車のような水素で動く車や固定式の燃料電池など使い方が多岐にわたり、脱炭素を実現する手法として非常に期待され、使用されるシーンが一般家庭や産業現場など今後増えていくことが予想されています。

世界が脱炭素を目指す中、新たな地産エネルギーとして水素の利用が増えていくと考えられているのです。これまでトヨタ社のMIRAIが水素を燃料とする車として知られていましたが、ホンダ社からもCR-Vという水素車が発表されました。さらに、水素は燃料だけでなく熱源としても使用されています。例えば、十勝地域の宮坂建設工業社が建設現場での利用を進めており、特に厳しい寒さの中で必要とされる寒中コンクリートはコンクリート打設後、一定温度以下にならない様に養生をする必要があり、冬季はジェットヒーター等による加温により、温度下降を防ぎます。その熱源に水素を使用しています。こうした用途の拡大により、水素エネルギーの利用が少しずつ増えていっています。
さらに、現在、全国的に様々な企業で水素を使った大型バスやトラックの実証を行っています。鹿追町で展開する私たちの取り組みはそれらに先駆けて、水素を供給できる拠点の整備を行っているわけです。


──非常に可能性が広がる事業で、順調に進んでいるように見えますが、抱えている課題などはありますか?
(末長さん)水素を活用するユーザーを増やしていくことがまずは当面の課題です。そのためには、単に利用を待つだけでなく、より多くの方に水素の利用シーンを伝えていく必要があると考えています。例えば、多くの方が水素自動車をイメージするかと思いますが、実際には産業用としても利用が進んでおり、十勝の某電気メーカーの工場では鹿追町で作られた水素が活用され始めています。このような活用例をより多くの方に伝えることことが必要だと考えています。
また、水素を供給できる拠点が現在は鹿追町にしかないという課題もあります。現在、十勝全体でトヨタのMIRAIが約25台走行していますが、水素を供給できる場所が現在は鹿追町のみであるため、ユーザーにとっては非常に不便ではないかと考えています。このため、水素供給拠点の拡大は今後対処していくべき重要な課題です。


しかおい水素ファームの挑戦。地域循環型社会の構築。

──水素が生成されるプロセスを教えていただけますか。
(野口さん)しかおい水素ファームが水素を生成するプロセスは4つの段階を経ています。

  1. バイオガスの生成: 家畜ふん尿を発酵させてバイオガスを発生させます。バイオガスは主にメタン(約60%)と二酸化炭素(約40%)で構成されています。

  2. メタンガスの抽出: 膜分離プロセスによって二酸化炭素を取り除き、メタンガスを抽出します。

  3. 水蒸気改質反応による水素と一酸化炭素の発生: 抽出したメタンガスに水蒸気を反応させ、水素と一酸化炭素を発生させます。

  4. 水性ガスシフト反応による追加的な水素発生: 一酸化炭素と更なる水蒸気を反応させ、追加的に水素を発生させます。


(野口さん)このようなプロセスを経て生産された水素は、水素ステーションで高圧化され、燃料電池自動車の燃料として充填・販売されています。さらに現地で使用している燃料電池フォークリフトへの充填も行っているほか、将来的には、産業用水素ガスとしての販売も目指しています。


資源の完全循環を目指した新たな取り組み

──水素を生成する工程で発生する二酸化炭素は現在どのように活用されているのでしょうか?
(末長さん)現在は廃棄していますが、日東電工社と連携して二酸化炭素の活用に関する実証実験を進めています。具体的には、日東電工社が二酸化炭素と水素を組み合わせてギ酸を生成する技術を持っており、現在ラボスケールで実証実験を行っています。このギ酸は、牛の飼料を発酵させる際のpH調整剤や、飛行機の翼に使用される融雪剤として使われています。北海道ではギ酸の需要が高く、二酸化炭素の利用が可能になれば、家畜のふん尿由来で生成することで資源の完全循環を実現できると考えています。そのため、現在この取り組みの実現化を進めています。


──水素の活用について色々お話を伺いましたが、十勝地域における今後の水素利用の展開としてはどのようなことを考えていらっしゃるのでしょうか?
(末長さん)十勝は酪農が盛んであり、乳業メーカーが多い地域です。そのようなメーカーの工場はボイラーなどの設備をたくさん導入しています。ボイラーを使用するためにはたくさんの熱を利用します。そのような場面で一部水素を熱源としてご利用いただけないかと考えています。

(野口さん)さらに、燃料電池を搭載した建設機械や農業機械にも水素を利用していただきたいと考えています。また、もっと身近な例としては、水素を活用するコンロがあります。水素を燃料とすることで、水蒸気が発生し、お肉がジューシーに焼けるという特徴があるそうで、これを売りにしている旅館も存在します。このように、今後はさまざまな場面で水素を活用していただきたいと考えています。


──最後に今後の目標をお聞かせいただけますか?
(末長さん)水素エネルギーは、私たちのエネルギー需要に対して大きな可能性を秘めています。特に、日本ではほぼ全てのエネルギーを輸入に頼っている状況ですが、水素は国内で生産可能な唯一の燃料です。これは電気に変換することも、そのまま利用することも可能です。世界情勢やエネルギー安全保障を考えると、地産地消の水素エネルギーの確保は非常に重要です。法改正なども進んでおり、政府としてもこの点に注目しています。
より多くの方々に水素をご利用いただくためにも、水素の使い方などをもっと広めていく活動を行っていきたいと思います。そして、やはり、まずはみなさんが水素を使いやすい環境を整えていくことに注力したいと考えています。

編集後記
鹿追町のしかおい水素ファームが、家畜ふん尿から水素を生産することで環境に優しい社会実現に貢献していることを肌で感じました。世界的な課題を十勝から解決していることに感動します。この先進的な取り組みは、地域資源の価値再発見と、持続可能なエネルギー利用の新たな可能性を私たちに示してくれました。十勝で行われているこの取り組みが、地球と共生する未来への大きな一歩となっていることは間違いありません。

LINK

しかおい水素ファーム ウェブサイト


協力

帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会


お問合せ

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