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面白農業組合TOYOKORO Z

髙橋 強、真里奈さん

#63「農業を面白くするゼッート!面白農業組合TOYOKORO Zの挑戦」

十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!

今回は、面白農業組合TOYOKORO Z(トヨコロ ゼット)の髙橋強さん、真里奈さんご夫妻にお話を伺いました。TOYOKORO Zの使命は「面白い農業の未来を守り、次世代につなげていく」こと。これまでにも町内でさまざまなイベントを企画し、現在は、Zのメンバーが作った小麦と大豆を使用した木桶醸造じょうゆの開発に尽力しています。その背景にあるストーリーや、木桶醸造じょうゆに関わる皆さんの熱い想いについて語って頂きました。それではいくゼッート!

(聞き手:LAND小田、帯広市経済部山川、宮谷)

面白農業組合TOYOKORO Z 髙橋 強、真里奈さん

プロフィール
髙橋 強、真里奈さん(たかはし つよし、まりな)

髙橋 強(たかはし つよし)さん
豊頃町地域おこし協力隊。面白農業組合TOYOKORO Zのイエロー(企画・営業)担当。帯広畜産大学を卒業後、1年間アルバイトを経て、スリランカの国立ペラデニア大学に留学。帰国後、広告会社に入社してコピーライターと営業職を経験。30歳のときに株式会社阪急阪神百貨店に転職。イベントプランナーとして「北欧フェア」や「カレーとカレーのためのうつわ」展などを企画。2023年4月から豊頃町地域おこし協力隊に就任。

髙橋 真里奈(たかはし まりな)さん
豊頃町地域おこし協力隊。面白農業組合TOYOKORO Zのオレンジ(経理・広報)担当。大学卒業後は、臨床検査技師として勤務。そのかたわら、夫である強さんが2021年に企画した「カレー8時間テレビ」を機に動画編集を学ぶ。2023年4月から豊頃町地域おこし協力隊に就任。TOYOKORO Zの経理・広報を担当するとともに、豊頃町内で「カレー喫茶マリリン」を定期的に出店中。

面白く、熱く、強く!農業を次世代に引き継ぐために。


――面白農業組合 TOYOKORO Zの基本的な事業内容について、お聞かせください。

(髙橋さん)まず、私たちが拠点にしている豊頃町の背景から説明させてください。豊頃町は漁業とともに農業が非常に盛んな町で、一農家当たりの平均作付け面積が50ヘクタールを超えます。畑作4品(小麦、馬鈴薯、甜菜、豆類)の原材料供給でビジネスモデルが十分に確立されているエリアなので、6次産業化に取り組んでいる人があまり多くはない状況です。ただ、今のままでは、将来的に日本の人口が減少して原材料が供給過多になり、値崩れを起こすリスクもある。そのリスクを考えたときに、6次化の開拓によって一つ一つの産品の利幅を取れるよう、既存のビジネスに対する未来への解決策、対応策を練っているというのが事業の一つです。

 そして、もう一つが「農業を面白いものにする」ということです。都市部に住む会社員の家庭に生まれた我々と違って、農家では土地と農業の仕事を次世代に引き継いでいくことが非常に大きな意味をもっています。仕事を引き継ぐのは、子どもたちか、親族か、これからの時代は移住者など他から入ってくる人たちかもしれませんが、今やっている農業が面白いものだと思ってもらえなければ後継者が見つからず、未来に繋がらないのでは、と考えました。

 そこで、「面白い農業」というものを考えたときにエンドユーザー(消費者)との接点を作ったり、町民に向けて「我々はこんな農業をやっている」と表現をすることで、農家のモチベーションに火を付け、次世代へのスムーズなバトンパスができるよう取り組んでいます。

豊頃町内で開催されたイベントの模様



――団体のモチーフとなっているのは戦隊モノですが、「面白農業組合 TOYOKORO Z」という名前もユニークで、思わず目を引いてしまいます。名前やコンセプトは髙橋さんが考案されたのですか?

(髙橋さん)はい。前職であるコピーライターの経験を活かして、私が考えました。「正しい」「わかりやすい」「面白い」の順に表現の難易度は上がっていくのですが、とにかく物事は、面白くなければ広がりません。

 戦隊モノは「赤はリーダー」「青はクール」「黄色はムードメーカー」など、日本人の間で共通認識がありますよね。それで、戦隊モノが良いんじゃないかと思って、隊員の一人一人にカラーを割り当てていきました。

 最初は「面白農業組合」だけにしようと思っていたのですがパッと見で、漢字だけの羅列には引っかかりがないことに気づきまして……これでは面白くない。何か明らかに違うものを入れようと思ったときに「戦隊モノ」「ヒーローっぽさ」がすぐ分かるのは「Z」じゃないかと。それで最終的にこの名前になりました。

 判断基準は「面白く、熱く、強く!」。事業を行う上で、何か迷ったときに面白さと強さ、熱さを見出せるかが、私たちの判断基準になっています。


――メンバーは、髙橋さんご夫妻のほかにどなたがいらっしゃるのでしょうか。

(髙橋さん)私たちのほかに、町内の畑作農家である遠藤亘さん(レッド)、神谷秀一さん(ブルー)と川口知紘さん(グリーン)の5名です。

(左)髙橋強さん、(右)真里奈さん



さまざまな人の思いが交錯する木桶醸造じょうゆ造り


――ここからは、本日特にお聞きしたかった、豊頃町産の大豆と小麦を使用した木桶(きおけ)醸造じょうゆづくりについてお伺いします。まずは、プロジェクトを立ち上げた経緯について教えていただけますか。

(髙橋さん)しょうゆ造りのアイデアは、阪急百貨店で催事の企画をしていた頃からのコネクションがきっかけです。木桶醸造じょうゆとは、文字通り「木桶で発酵させ、醸造したしょうゆ」のことで、全国的に流通しているのは、しょうゆ業界全体の1パーセントほどといわれています。

 TOYOKORO Zとして、農業の6次化を考えるにあたって何か商品を作らなくてはいけない。その商品は何がよいかと考えたとき、長期的な需要が見込めて日本人の誰しもが使うものとして思い浮かんだのがしょうゆでした。

 しょうゆの原料は、小麦、大豆、塩、麹そして水です。そして、豊頃町には小麦と大豆がある。豊頃町の大豆は、十勝管内でも寒冷な気候と十勝川支流に広がる肥沃な土地のおかげで、質も収量も良い。だったら、日本一の材料で日本一の醸造技術を持っている蔵元さんにOEM(他社ブランドの製品を製造すること)で依頼して、最高のしょうゆを作ってもらおうと、Zのメンバーにアイデアを共有して、実現に向けて動き出しました。



――木桶醸造じょうゆが、全国的なしょうゆ流通量の1パーセントほどというのは、何か理由があるのでしょうか。

(髙橋さん)現在は、ステンレス製のタンクを使用する醸造が主流です。ステンレスであればタンク内の気温を人為的に操作できるので、発酵のスピードを早めることができます。木桶は基本的に蔵の中で寝かせておくことしかできないので、発酵スピードは自然頼みです。費用対効果などの側面から、木桶造りは減少の一途を辿り、2010年代には桶を製造する桶屋も全国で1社、大阪府堺市の藤井製桶所のみとなってしまいました。


――2025年の現在も、木桶を製造できるのは藤井製桶所だけなのでしょうか?

(髙橋さん)藤井製桶所さんはすでに廃業されているのですが、木桶の製造技術を習得する方々がだんだん増えているんです。そのきっかけとなったのが瀬戸内海の小豆島(香川県)の蔵元「ヤマロク醤油」5代目の山本康夫さんと、山本さんと同級生で同じく小豆島で工務店を営んでいた坂口直人さんたちです。

 彼らが、藤井製桶所で桶づくりの技術を学び、小豆島に帰って自分たちで新桶を作った。これがきっかけとなって「木桶職人復活プロジェクト」(絶滅の危機に瀕している木桶の仕込みを続けるメーカーや関係者が、企業や業界の枠を越えて集まり、技術を共有して木桶と木桶職人を増やすことを目指すプロジェクト)が立ち上がり、年に1回小豆島で「木桶サミット」が開催され、木桶づくりの技術が継承されるようになっています。


――髙橋さんも、木桶サミットに参加されたのですか?

(髙橋さん)私は百貨店時代から何度か足を運んだのですが、2024年は遠藤さん(レッド)と一緒に参加しました。木桶サミットにはしょうゆはもちろん、酒やみりん、みそなどを造る木桶の醸造家が全国から集まって、彼らの製品を試食することができたんです。

 そして、そこで出会ったのが今回OEMをお願いする奈良県御所(ごせ)市の「片上(かたかみ)醤油」さんでした。片上醤油さんの「大鉄砲醤油」。これが、めちゃくちゃ美味しかった。大鉄砲醤油は、奈良県産の在来種大豆「大和大鉄砲大豆」を使っているのですが、これは収量があまり多くなく、手間もかかるから育てる農家さんが少ない。

 でも、日本にはこういった古代種の作物を大切に植え継いできた粋な農家さんがいて、片上醤油3代目の片上裕之さんも「昔の醸造技術で、昔からあった日本のしょうゆをつくってみよう」というガッツ溢れる気持ちで、しょうゆ造りをしているんです。

 その上、片上さんは東京農業大学の醸造学科で学んだ理論の人でもある。タンパク質含量が多い品種改良化された大豆を使えば、旨味成分が上がることはわかっていながら、日本人が昔から使っていた自然な大豆を使ってトライしたのが「大鉄砲醤油」です。

 経済的好条件と、それに相反する「本当に美味しいものを作りたい」という職人の魂みたいなもの……そのバランスを非常にうまくとってしょうゆ造りに取り組んでいる片上さんにぜひお願いしようとなりました。2024年末に材料の運び込みが終わり、2025年2月中旬から醸造を開始する予定です。

木桶サミットに参加する高橋強さんと遠藤さん



――豊頃町産しょうゆの醸造工程についても、教えてください。

(髙橋さん)片上さんは在来種の大豆を使って大鉄砲醤油を造ったとき、1回では旨味が乗らなかったために「再仕込み」といって、最初の仕込みから1年後にまた同量の小麦と大豆を入れて発酵にトライされました。ただ、再仕込しょうゆは原材料の量と醸造期間が倍になってしまいますよね。でも、その手間とコストが掛かった「大鉄砲醤油再仕込み〈円熟〉」が本当に美味しかった。だからこれから豊頃町の大豆と小麦を使って造るしょうゆも、半分は再仕込みに回します。そうすることで、1桶で2種類のしょうゆをつくってもらうことにしました。


――効率第一主義を良しとする大量生産の世界では、決してできない製法ですね。

(髙橋さん)商品をつくる時に、少なくとも自分が納得できるプロセスを踏むことが大切と思っています。小豆島まで行き、数々のしょうゆを試飲し、職人さんの話を聞いた結果、片上さんにお願いをする。手間はかかるかもしれませんが、プロセスに自身がなければ、百貨店の経験上、消費者の心を掴む商品は生み出せません。「なぜそこを選んだんですか?」「なぜこんなことをやっているんですか?」という疑問を、お客さんは持つわけです。そこに自分なりの答えを明確に提示できないと、市場での支持はされないと思っています。


――豊頃町産原料を使ったしょうゆづくりの裏に、木桶製造技術の継承や、片上醤油の熱い想いなどたくさんのストーリーと熱い想いがあることを知ることができました。しょうゆができてからの構想についても教えていただけますか。

(髙橋さん)まずは、昨年も開催した大豆の豆まきと収穫のイベントは、今年も継続していく予定です。それから、これからできるしょうゆのパッケージについては豊頃町内の小中学生からアイデアを募集して、しょうゆ造りの一翼を担ってもらいたいと考えています。

 しょうゆができるといろいろな広がりがあって、豊頃町には自慢の海産物がありますから、海産物と組み合わせた加工品などにも展開できるはずです。よく、同じ土地で作られるもの同士の相性がいいのは「テロワール(農産物が生育する土地の自然環境)が同じだから」などと言われますが、こういった物語として伝えていくことも重要であると考えています。

 うまくいけば、最初のしょうゆが2026年の2月ごろに完成するので、古巣の阪急阪神百貨店に出店したいという目標もあります。


――ありがとうございました。最後に、十勝の皆さんへメッセージをお願いします。

(髙橋さん)十勝は、ポテンシャルが高いエリアです。特に農業は、広大で肥沃な大地と寒暖差、そして晴れの日が多いという圧倒的な地の利があります。

 ただ一方で、加工や販路開拓についてはまだまだ取り組む余地がありそうです。これから十勝の魅力をブーストさせるのは、いわゆる二次産業、三次産業の分野におけるチャレンジャーなのではないでしょうか。


(編集後記)
豊頃町、ひいては日本全体の課題である「持続可能な農業」の実現に向けて、TOYOKORO Zが掲げるミッションと「木桶醸造じょうゆ造り」の活動については、高橋さんのコピーライターや百貨店のイベントプランナーとしての経験に基づいた非常に一貫性があるストーリーであると感じられ、まさにその姿は地域を救うヒーローのように映りました。これからもご活動を応援していますゼッート!
(LAND 小田)


LINK

面白農業組合TOYOKORO Zインスタグラム


協力

帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会


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