十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
今回は、帯広地方卸売市場株式会社(帯広市)の代表取締役 髙嶋昌宏さんにお話を伺いました。同社は1913年の創業以来、110年以上に渡って十勝の物流を支え、安定した食の供給に努めています。それに加えて、近年は今までになかった新たな役割が求められているそうです。
(聞き手:フードバレーとかち推進協議会 相部、山川、LAND小田)
帯広地方卸売市場株式会社 髙嶋 昌宏さん
プロフィール
髙嶋 昌宏さん(たかしま まさひろ) 代表取締役
1965年北見市生まれ。小学4年生の時に帯広若葉小へ転入。1988年、帯広地方卸売市場株式会社に入社。青果部果実課で主に輸入果実を担当。2022年から現職。
今までにはなかった卸売市場の新たな役割
――まずは、帯広地方卸売市場(以下、「帯広市場」)の基本的な役割についてお聞かせください。
(髙嶋さん)帯広市場は消費地市場(※消費者が多い場所に近い市場)であり、産地市場(※収穫できる場所に近い市場)でもあります。消費地市場として十勝で生活をされている方に安定的に食料品を供給すること、産地市場として十勝の生産物を道内外の取引先に供給することを主な仕事としています。需要と供給のバランスを見ながら、価格が乱れないように維持していくといった機能の一翼を担っています。
――近年では、サツマイモなど新たな作物が十勝でも生産されていますね。
(髙嶋さん)サツマイモはこの数年、生産者が試行錯誤を続けていらっしゃると思います。十勝の生産者は大規模に農業を行っている方が多いので、サツマイモに限らず生産者がご自身で販路を獲得している場合もありますし、帯広市場が産地市場として販路を繋ぐこともあります。
――市場として、商品の価格を安定させる困難さはどういったところにあるとお考えですか。
(髙嶋さん)帯広市場で扱っているものは水産、青果、花きとさまざまですが、そのほとんどが工業製品とは違って自然相手の商材です。海水温や気温の上昇など、昨今の気候変動で入荷のタイミングが予定よりも早まったり遅くなったりすることが当然あります。そのバランスが崩れたときに価格が高騰したり、出荷が停止してしまうわけですが、その際の対応をどれだけ上手くできるかが、価格の安定につながっていきます。
また、気候変動以外の価格変動の要因として、帯広に限らず全国レベルの話ですが、産地リレーが上手くいかないことの一つの原因として人手不足があり、それによって値段が高騰してしまうこともあります。この調整を上手くできれば、一般消費者には適正な価格で商品を購入できますし、逆の場合も価格の下落を抑えることで生産者の収入が今より良くなるはずなんですが、帯広市場だけで解決できることではないので、難しい課題であると捉えています。
――近年はあらゆる業界で人手不足が深刻化しており、半製品(※製造工程の途中段階にある中間商品で、一定の工程が終了しており、そのまま販売や貯蔵が可能なもの)への加工支援にも注力されていると伺いました。
(髙嶋さん)そうですね。半製品の加工支援に対する需要は、少しずつ高まっているように感じています。製造業者にとっては外注によるコストが発生してしまうデメリットはありますが、今はそれよりも人手不足の方が深刻になってきていて、外注をしないとどうにもならない。極端にいうと、そういった状況にまで来ている気がします。
一方で、例えば果実の加工は手作業の部分が多く、技術と経験がものを言う仕事でもあるので、人員を揃えるだけでは作業効率は上がりませんし、生産者の高齢化やそれに伴う後継者不足の問題もあります。このように、加工支援に対する需要が増加してきている背景には、人手不足と後継者不足があります。
そういった産地の現状に対して、我々ができることは限られているのですが、例えば果実の袋詰めの作業をこちらで賄うこともあります。ミカンは一昔前なら10キロ箱で店頭に出るのが当たり前だったのが、5キロの小箱になり、最近では3キロ、2キロの袋物が当たり前になってきました。これも少子化や核家族化の影響でしょうね。小袋の需要が高まれば高まるほど作業に人手が必要になるので、そういった加工支援の注文は多くなってきてます。
――従来は求められていなかった機能が市場に求められているということですね。そういった昨今の状況で、御社が最も重要視していることは何でしょうか。
(髙嶋さん)急速に移り変わる時代のニーズに合わせた対応は常にしていかなければならず、「今年はこうだったから、来年もそれでいい」は成立しません。そのニーズを最も理解しているのは、消費者と最も近いところにいる量販店の方々です。そのような方々と情報共有を密に行いながら、よりタイムリーな販売に繋がるよう、心がけています。
帯広市場が道内物流のハブを担う未来
――近年の輸送コストの問題についてお伺いします。燃料価格の高騰、働き方改革などもあり輸送コストは値上がりする一方ですが、それについてはどうお考えですか。
(髙嶋さん)物流の2024年問題※で、これまでと比べて配送日数が伸びたり、運搬がスムーズに行かないことによるコストの増加も懸念されましたが、我々自身がアンテナを張り巡らせることで新しい運送会社との付き合いも生まれました。物価上昇は今後も避けられないものと捉えていますが、物流の再編が進むことは結果的に前向きに捉えています。
※物流の2024年問題
2024年4月から働き方改革関連法施行により時間外労働の上限規制等が適用され、特にトラック事業においては労働時間が減少することで輸送能力が不足し、トラック事業者においては利益が減少し、ドライバーの収入減少による担い手不足などが懸念されている。
(参照:全日本トラック協会)
――道内物流の拠点として、定温物流倉庫の整備についても話が進んでいると伺いました。
(髙嶋さん)帯広は、道内各地からのアクセスに恵まれていて、地理的条件の良い場所です。以前から道内物流のハブ的な役割が求められていましたが、今このタイミングで施設を整えて、食料の安定的な供給に貢献していきたいと考えています。
新たな定温物流倉庫の整備計画では、現在の5~6倍の収容能力を担保できるようになるので、それに向けた営業は当然していかなければならないと思っています。地域の事業者様と情報交換をし、道東の物流拠点としておおいに活用していただきたいです。
また、加工についても加工業者との連携がさらに増えていくのではないかと予想しています。一次加工(洗浄やカット、加熱殺菌、冷凍など原料の性質を大きく変えない最初の加工段階)の機能をどこまで持たせるのかというのは、地域の事業者とすり合わせしながら考えていく必要がありますが、先ほどもお伝えしたように、ニーズは増えていくのではないかと思います。
――定温物流倉庫ができることによる最大のメリットは何でしょうか。また、メインとなるターゲット層は誰になるでしょうか。
(髙嶋さん)最近では、商談をしていても冷凍野菜の引き合いが圧倒的に強いように感じます。原料の産地が十勝であり加工場を帯広近隣に有していても、原料や加工後の製品の保管場所がない事業者にとっては、今後その保管機能を我々が担うことによって双方にメリットが生じます。加工場から保管場所までの移動が短いほど、輸送コストは削減されて出荷効率も上がるわけですから。
現場の声を聞くと保管場所に「入れる」「出す」という諸作業も業者さんにとってはかなり負担のようですが、卸売市場はその点も強い。早朝から動いているので、運送業者の待機時間解消にも繋がる幅広い時間帯での入出庫など使い勝手がいいというメリットもありますね。
国内外での販路開拓と新たな取り組み
――2018年には、東京大田市場(東京大田青果物商業共同組合内)に東京事業所が設置されましたが、東京事業所の役割はどのようなものなのでしょうか?
(髙嶋さん)全国から多様な商品が集まる東京から十勝にそれらをもってくるということもありますし、北海道の商品を東京の市場経由で取引先に送ることもあります。東京で買参権(※市場で商品を購入できる権利)を持つことによって当然、販路は広がりました。「北海道ブランド」は強いということを改めて感じましたね。また、東京事業所を設立して初めて域外の市場との関係性ができ、その結果として十勝の農協と手を組んで加工品の原料を出荷するという動きも生まれました。
――この数年、新たに取り組んでいる事業やプロジェクトなどがあれば教えてください。
(髙嶋さん)2024年は、初めて海外取引を実施し、台湾向けにナガイモを輸出しました。今後も海外市場を見据えて、十勝の事業者が有する様々なニーズに応えていきたいと思っています。
もちろん、試験的にではありますが、こういった経験のなかで見えてくるものはありますし、新しい取り組みについては前向きにGOを出しています。市場というものが出来た当初は社会的にモノが不足していたので、物流効率が改善してモノが届きやすくなった現代では市場に求められる役割も当然変わります。だからこそ、その物流拠点として倉庫を作る、販売する、確保するという今までは誰かがやってくれていた機能を取り込んでいかないと、向上できないと感じています。
――ありがとうございました。最後に、十勝の皆さんに向けて何かメッセージがあればお願いします。
(髙嶋さん)私は、地元の人たちが住んでいる町に関心を持たなければ、その街はだんだん寂しくなっていくと考えています。地元民が皆で「なんとかしていこうよ」という気持ちになって、町を盛り上げていければ、十勝はもっと魅力のある場所になっていくのではないでしょうか。すぐには結果は出ないかもしれませんが、いろいろなことにチャレンジしていってもらいたいです。私自身も何かしらのかたちで、常に町と関わっていきたいと思います。
今まで市場として「荷物を集荷して売る」ということしかしてこなかったので、外部からの情報は常に新鮮です。食に関わる事業者に限らず、さまざまな事業者との会話を通して、互いが持っているものを共有し合えれば、新たな事業の創出に向けて一歩を踏み出していけるのではないかと思います。
編集後記
今回取材を快く引き受けて頂いた帯広地方卸売市場様の社是「信用」「向上」「継続」について改めて実感させられました。これまでの役割を果たしながらも時代に即した変化を前向きに実践していく姿勢こそが、十勝の「信用」の「向上」や持続的な地域に繋がっていくものと信じて、これからも取り組みを応援していきます!
(フードバレーとかち推進協議会 相部)
LINK
帯広地方卸売市場株式会社ウェブサイト
協力
帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会
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