北海道帯広市の事業創発拠点「LAND」

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佐々木畜産株式会社

佐々木 章哲さん

#60「畜産を変革し、食の未来につなげていく」佐々木畜産の今までとこれから」

十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
今回は、牛の生産から販売までを一手に担い、畜産業を多角的に手がけている佐々木畜産株式会社(帯広市)の代表取締役 佐々木章哲さんにお話を伺いました。佐々木さんが掲げる「畜産を変⾰し、⾷の未来につないでいく。」という経営理念の背景には、どのような思いがあるのか。佐々木畜産の現在と今後の展望について伺いました。
(聞き手:フードバレーとかち推進協議会 相部、LAND小田)

佐々木畜産株式会社 佐々木 章哲さん

プロフィール
佐々木 章哲さん(ささき あきのり) 代表取締役

佐々木畜産株式会社 代表取締役。1980年生まれ。都内の大学在学中に経験したインテリアショップでのアルバイトを機に、卒業後は単身ニューヨークへ。3年の滞在の後、帯広に戻り家業である佐々木畜産に入社。2020年から現職。

インテリア業界から家業である畜産業への転身


――まずは、佐々木畜産の基本的な事業内容について教えていただけますか?

(佐々木さん)牛の生産から販売、家畜の輸送など、グループ会社が連携して畜産事業全般を担っています。創業は1948年で、70年以上に渡って十勝で畜産に携わってきました。自社牧場では、ブランド牛「十勝四季彩牛」を育てて販売しているほか、海外向けには「佐々木牛」として販路を開拓しています。

――家業である佐々木畜産には2007年に入社し、2020年に代表取締役に就任した佐々木さん。それまではインテリア業界に身を置き、ニューヨークに3年暮らしていたというご経験もありますが、家業を継ぐことを決めたきっかけは何だったのでしょうか。

(佐々木さん)私が帯広に戻ってきた2000年代後半は、ちょうど食への注目度が高まってきた時代でした。当時はmixiなどのSNSが広がり、食の情報が世の中に多く出回り始めた頃で、インテリア業界を志した理由はライフスタイルのデザインに興味があったからなので、食への関心が高まっていくなかで、食に関わる仕事に魅力を感じていました。
 そういった時勢もあって、北海道十勝というポテンシャルの高い土地で、長い歴史をもつ佐々木畜産の仕事に「これはやる意味がある、価値がある」と思って戻ってきました。

――ところが、佐々木さんが入社された翌年(2008年)にはリーマン・ショック、2010年には口蹄疫と、社会全体に大きなダメージを与える出来事が続いた時期でしたね。

(佐々木さん)そうですね。しかも当時は2001年に発生したBSE(牛海綿状脳症)の影響を引きずっていた頃でした。リーマン・ショックによる景気悪化で、一人当たりの牛肉の消費量がぐんと落ちたのが入社1〜2年目でしたね。
 すばらしい仕事だと思って戻ってきましたが、実際に蓋を開けてみると、生産の現場というのは本当に難しい。常に業界を揺るがすような事件や事故が相次ぎ、2011年には東日本大震災によるセシウム問題などもありました。常に逆風が吹いていて、非常に苦しいということをずっと感じながら仕事してきました。

――そんな中で、佐々木畜産では「もっと牛を知りたいと思う。」という企業スローガンを掲げ、企業ロゴでもそれが表現されています。2022年には、目指す姿として「畜産を変⾰し、⾷の未来につないでいく。」という経営理念を策定するなど、明確にビジョン設定をされています。具体的には、どのような変革、変化に取り組んでいくべきだとお考えですか。



(佐々木さん)一番に感じていることは、もっと食肉に「多様性」が必要なのではないかということです。牛肉に関して言えば、霜降りかそれ以外かという選択肢しか皆さんお持ちではないのではないでしょうか。「赤身を食べたい」「国産の飼料だけで育った牛を食べたい」「放牧の牛を食べたい」など多様な肥育方法による牛肉というのがもっとあるべきだと思うんです。
 現状、霜降り肉に代表される「良い肉」の評価は、生産者さんと食肉業者さんの取引が中心で、この評価は消費者=市場(マーケット)から少しズレてきてしまったのではないかと私は考えています。もっと消費者の声に耳をかたむけて、消費者が求める肉を生産していくべきだと思います。

――佐々木さんが販路を開拓しながら、少しずつ畜産の変革に取り組んでいく中で、佐々木畜産の強みはどこにあると考えていますか。

(佐々木さん)牛肉業界が動きにくい理由は生産行程の多さにあります。牛を産ませる人、育てる人、肉にする人、売る人と、全てが分業化されているので、一社だけが動いて流通を変えるのが非常に難しい。一方、佐々木畜産の場合は、牧場から販売までを担っているので、この会社で何かをやろうと思ったら、一気に動けるというのが強みになっていますね。アイデアがあれば様々なテストを行い事例を作ることができます。

――2024年の現状、円安下で外から入ってくるものの価格が高騰し、どの業界もダメージを受けていますが、今直面している一番の課題は何でしょうか。

(佐々木さん)日本の畜産は輸入穀物への依存度が高い生産体系なので、一番困ってるのはやはり飼料の問題です。十勝では、規格外等で再利用もされずに廃棄処理されている野菜がたくさんあり、それらを飼料として使う量を増やしていくべきと思っているのですが、通年で手に入らないことや、保管、水分の問題など実用化には多くの課題があります。それから、どこも同じかもしれませんが人材の確保も大変なところではありますね。



牛肉の「多様性」を広げるために


――販路開拓の現状と課題についてお聞きしたいと思います。現在の出荷頭数とその内訳について教えてください。

(佐々木さん)佐々木畜産では年間約1万頭分の食肉を出荷しています。そのうち自社牧場で育てた約800頭を「十勝四季彩牛」と名付け、自社ブランドとして販売しています。残りの約9,000頭は道内の提携農家さんから出荷頂いた牛です。約9,000頭の9割は北海道産の牛肉として、全国の大手スーパーへ納品しています。残り1割は、焼肉屋さんなどの飲食店などに行きます。高級部位は、レストランやホテルへ納品していますね。
 ちなみに、十勝では、日本国内の牛の約1割を処理しているので、牛肉の生産シェア数でいえば、十勝の牛肉生産地としての影響力は非常に大きいと思います。子牛や素牛の数も踏まえると、十勝から全国へ届けられる牛というのはそれ以上に多いかもしれません。

――佐々木畜産では、会社敷地内に直売所も設けていますね。

(佐々木さん)例えば、小売店などに卸した牛肉は、どこで生産されたものかは消費者には分かりにくいですよね。地元の方々や他の生産者さんにも弊社の直売所に来てもらって、地元の牛を食べてもらいたいという思いがあって営業をしています。

――国内においては、経営理念にもある「食の未来」を作っていくために、どのような展望をお持ちですか。

(佐々木さん)最初の「多様性」の話に戻りますが、今、肉業界は消費者の「もっとこういう肉が食べたいんだよな」という需要の開拓がほとんどできていません。それができれば、日本の牛肉消費量がもっと上がると思っています。
 弊社では、赤身牛肉の生産に着手して約1年経ちましたが、取引先とは「そもそも人口はこれからますます減っていくのだから、購買人口ではなく購買量を上げよう」という話をしています。消費者一人一人が牛肉を買う頻度を上げたいんです。
 そもそも、国産牛肉というのは贅沢品だというイメージをもっている方が多いですよね。「毎日ちょっと食べたい」と思っても、なかなかそんなに食べる機会がない。
 霜降りはしゃぶしゃぶやすき焼きにしたら美味しい。でも赤身のステーキもあって、ローストビーフもあって、ひき肉もあって……と、牛肉のバリエーションをどんどん増やして、「テーブルミート」として使われることを目指しています。


海外への販路開拓は「攻めの姿勢」で


――海外では「佐々木牛」として、これまでにベトナム、タイ、アメリカ、ラオスなどに輸出実績がありますが、国外流通の苦労としてはどんなことを感じていらっしゃいますか。

(佐々木さん)一番の苦労は、日本のライバルと戦わなくてはいけないことです。九州をはじめ先に輸出を手がけている企業は、輸出のルートを既に構築しています。そこに後から入っていかなければならないわけですから大変ですね。
 北海道の肉を扱った経験がない海外の商談先がほとんどの中で、北海道とそれ以外の地域の違いを出していかなければならない。現状では値段勝負の取引になってしまっているので、今後はよりブランディングが重要になってくると思います。今は、種まきの時期ですね。

――「佐々木畜産通信」に「(海外では)ロースとヒレしか売れない」と書かれていました。これにはどんな理由があるのでしょうか。

(佐々木さん)アジアの飲食店の牛肉の主な購入先はオーストラリアかアメリカで、この2カ国は、牛肉をパーツごとに売るんです。そしてそれらの国は、例えば日本には(大手牛丼チェーンなどに)バラ、タイにはミスジとロースとヒレといったように、他の部位を提案していない。ということは、アジアの飲食店はそもそも他の部位があること自体を知らないんです。

――今まで知らなかった部位の使い方を提案することで、その市場がブルーオーシャンになる可能性もあるといえますね。



(佐々木さん)そうですね。日本では一頭丸ごと販売するというスタイルが主軸です。ただ、アジアの人たちからすれば、牛一頭が何パックかに分かれていて、それぞれ硬さも大きさも違うとなると使いにくいわけです。でも、その方が(パーツごとに購入するよりも)安く仕入れられますから、細かい部位の使い方まで含めた取引やフォローを行うことでこの先販路が広がっていく可能性はありますね。

――今後の海外での展望については、どうお考えですか?

(佐々木さん)タイ、アメリカ、ベトナム、ラオスと出したいと思っていた展示会には回れたので、局面的には次の段階に入っていると思いますが、輸出はやはり難しいですね。どこかで爆発的に伸びるとは思うのですが。
 ただ、展示会に出た意味はすごくありました。展示会に出ないと現地のお客さんには出会えません。そこで必ず「北海道の牛肉を扱ってみたい」という人と出会えますから。それからは、攻めの姿勢です。自らコンタクトを取って、見積もりを出して、提案をして……今は毎月1.2組は海外から牧場へ視察のお客様がコンスタントに訪れています。


牛を活かしきるために、もっと牛を知りたい。



――生産から販売までを担うグループ全体として、今後を見据えた新しいアイデアや切り口などがあれば教えてください。

(佐々木さん)これからは、脱炭素といいますか、よりGX(グリーントランスフォーメーション=脱炭素社会を目指す取り組みを通じて、経済社会システムを変革させること)について考えていかなければいけないと思っています。今までは、こういった問題は自社だけでは解決が難しいことが多かったのですが、最近はAIがアイデアをくれて可能性を広げてくれますよね。
 理念に掲げている「変革」とは、ただ単に牛を育てて肉にするだけではなく、エネルギー効率の改善や環境負荷の低減も含んでいます。海外では食肉で削った牛脂を、SAF(Sustainable aviation fuel、持続可能な航空燃料)にする取り組みも始まっています。十勝で加工されている牛が国内の1割を占めるのですから、十勝がサステナブルなエネルギーの一大産地にもなり得るわけです。「とかち帯広空港発着便は、十勝産の燃料を使っている」。いつか、そんなことができるかもしれないですよね。
 また、最近では、牛の歯を移植材として人間の骨を再生する技術を研究・開発をしている方が北海道大学にいらっしゃるそうです。この他、農業畑作においては化学肥料の高騰などを背景に家畜からでる堆肥の価値が高まっているのはもちろん、牛には食肉以外にももっと有用な価値があります。
 まだまだ私たちは、牛を十分に活かしきれていない。だから「もっと牛を知りたいと思う」んです。

――ありがとうございました。最後に、十勝の皆さんに向けて何かメッセージがあればお願いします。

(佐々木さん)皆さん、牛肉を食べてください!というのはもちろんですが、私は自分からというより「いろいろ教えてください」という気持ちです。
 先ほど、AIやエネルギーの話が出ましたが、業界や分野を問わず、むしろ食とは関係がなさそうな十勝内外の方達とジャンルレスに話がしたいです。「畜産を変革し、食の未来につないでいく。」という理念がある以上、畜産の枠、ひいては食の枠を越えて、いろいろな人と繋がっていきたいと思っています。

編集後記
インタビューを通して、佐々木代表はマイナスに見える側面をプラスに捉えてお話しされていました。それは、「もっと牛を知りたい」という牛への可能性や、業界を変革していくんだという強い想いがあるからだと、佐々木代表の表情から感じました。佐々木代表が本記事をご覧の方々と出会うことによって、さらに牛の可能性が拡がっていくよう引き続き応援していきます!
(フードバレーとかち推進協議会 相部)


LINK

佐々木畜産株式会社ウェブサイト


協力

帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会


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