北海道帯広市の事業創発拠点「LAND」

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十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!

十勝・浦幌町で起業した小松輝さんの新たな取り組みに注目が集まっています。設立した株式会社リペリエンスは、それまで地域になかったゲストハウスをオープンさせ、2023年には本や雑貨の小売店「トリノメ商店」をオープン。人口減少や人材難の時代でありながら、スタッフや仲間を惹きつけ、複数の事業を組み合わせたローカルビジネスのロールモデルとなっています。

(聞き手:LAND高橋、帯広市経済部 岡田さん)

株式会社リペリエンス 小松 輝さん

プロフィール
小松 輝さん(こまつ ひかる) (株)リペリエンス 代表取締役

1994年徳島県徳島市生まれ。徳島大学で中山間地域のまちづくりについて学んだ後に、浦幌町で地域おこし協力隊として働く。任期の3年間で観光事業の立ち上げに従事し、2019年に(株)リペリエンスを設立。旅行業を中心にツアー企画などに取り組んできた。2021年には浦幌町でハハハホステルをオープン。その他、浦幌町営留真温泉の管理を受託する「合同会社Ofuroto」の代表社員や、道東を盛り上げる一般社団法人ドット道東の理事なども務める。

大学新卒で地域おこし協力隊として移住



――小松さんは「大学新卒で地域おこし協力隊として移住」という、珍しい経歴で浦幌町に移住していますよね。背景を教えてください。

(小松さん)徳島大学に入学してはじめの頃は、公務員になることを考えていました。しかし、学生の時に体験した浦幌町でのインターンシップを通して、実際のまちづくりに触れ、もっと直接的に地域に貢献したいと感じたんです。そんな中、卒業間際に浦幌町での地域おこし協力隊が募集されていることを知り、この地で何か新しいことを始めたいと思ったんです。

――地域おこし協力隊ではどんな取り組みを?

(小松さん) 地域おこしに関わった学生時代の経験をそのまま活かせる、地域の観光事業の立ち上げに携わることができました。任期中は特に、農林水産省の事業で『農泊』プロジェクトに注力し、地域の自然や文化を活かしたツアーを企画しました。いわゆる滞在型旅行ですね。訪れた人たちに農作物の収穫体験やバードウォッチングなどのツアーが付いている旅行です。これが後の起業への大きなステップとなりました。

――起業を決意したきっかけは何ですか?

(小松さん)まさに、その滞在型旅行企画の最中ですよ。協力隊としての任期が終わるにあたり、地域にもっと長く貢献したいと考えたこともあり、また、旅行業の資格も取得していたので、このまま自分のスキルと経験を活かして地域の魅力を伝える企業を設立することにしました。

誰かがやるのを待っているだけでなく、自分でやりたい。



――株式会社リペリエンス設立後の取り組みについて教えてください。

(小松さん)最初は浦幌の特色を活かしたツアーを企画し、地元の魅力を伝えることに尽力しました。当時はまだ地域おこし協力隊の任期中だったのでバタバタでしたし、売り上げもほとんどありませんでした。それでも地域の方々の応援があったから途中で諦めずに頑張ることができました。それから、地域に人を呼び込むにあたって、新たな宿泊施設の必要性を感じ、コロナ禍真っ只中に準備を進めました。2021年7月に『ハハハホステル』を開業し、会社としては現在3名の従業員と一緒に切り盛りしています。

――2023年10月、『トリノメ商店』オープンをしました。始めた理由を教えてください。

(小松さん)『ハハハホステル』を作って、商売的には外のお客さんと接しながら、地域にどう関わって貢献できるかということを考えてやってきました。その頃から、街の飲食店などのお店が毎年1店舗ずつくらい無くなっていっていたんです。宿泊客に紹介する店が少なくなったこともあるし、ここで暮らすときに、職場以外で落ち着ける場所、立ち寄れる場所が1つでも多い方がいい。とは言え、誘致するのも簡単じゃないという中で「誰かがやるのを待っているだけというのもどうかなぁ」と思いました。自分ができる範囲で1つでも事例として作りたい、というのが『トリノメ商店』をはじめた理由です。

毎年1店舗閉店していく中で、新しい流れができてきた



(小松さん)民間店舗の新規開業はここ最近ないですが、2023年はトリノメ商店ができ、2024年には商店の中にクラフトビールのブルワリーもできます。さらに、2024年は、浦幌町出身の方と札幌出身のカップルの方が移住して、美容室兼喫茶店のようなお店ができるんですよ。

――いい流れが来ていますね。

(小松さん)そうですね。元々美容室だった空き店舗があって、そこを取り壊す、というような話を聞いたんです。「壊すんだったら譲ってください」と所有者の方にお話をして、話がまとまった段階で「誰か興味ある方いませんか?」とX(旧Twitter)で投稿したら、早速連絡をくれたのがそのカップルです。街の中で、どう「選択肢を増やせるか」みたいなことを考えていて、僕も1つ作りたいと思って始めたら、考えていたことが急展開で進んでいる感じですよね。

――ハハハホステルという事業基盤がありますが、新たな事業を始めるのに資金が必要ですよね。

(小松さん)地元の金融機関や補助金、クラウドファンディングなど、たくさんの人に支援をいただいています。都市部とは違って大きな設備投資をして回収できる見込みは低いのではないかと思うので、自分でできることはDIYで初期投資のコストをできるだけ下げて、人件費さえ稼げれば、会社としては潰れない、といったような状況をどうやって作るか、ということは結構考えていました。
結果的にですが、レンタルオフィスで事業者に入ってもらったり、テナントとしてブルワリーが入ってくれたり、という形で、何年かかけてコストを回収できるように工夫しました。

――浦幌町と同じ人口規模のまちが北海道に多くあると思います。これから地域で事業を始める方の参考になると思うので、差し支えなければ、トリノメ商店の開店に実際どのくらいの費用がかかったのか教えてもらえますか?

(小松さん)建物と土地を合わせて180万円で購入しました。屋内は200平米あるんですが、改修費用に700万円くらいかかりました。ざっと物件購入から改修まで全部で1,000万円くらいでしょうか。これを全て業者に依頼すると3倍くらいはかかったと思います。自己資金や金融機関からの融資に加え、浦幌町のリフォーム補助金も80万円程活用させていただきました。コストは60坪の物件なので、坪単価は10万円弱くらいですね。
天井や壁はプロに任せましたが、その他の多くは自分たちで作っていきました。トリノメ商店の多くの設備はDIYなんですよ。ドアや棚、カウンターのほか、トイレも買ってきて自分で設置したくらいです。廃材やいらなくなった物を頂き、リメイクして使っています。最初は上下水道も通っていなく大変でした。実はまだ屋根も4分の1くらい塗り終わってないんです(編集談:取材後の2023年12月初旬に塗り終えたとのこと)。

――DIYなど初期投資のコストを下げることで、トリノメ商店のような新たな店舗ビジネスを展開することが可能だというモデルケースになりますね。

(小松さん)そうですね。16万人が住む帯広市であれば、土地の値段も含めて物件の確保など難しかったと思うのですが、そこは浦幌町だったからこそできたのだと思います。トリノメ商店にはオープン以来、必ずお客さんがきていて、本も少ないながらも必ず売れています。売り上げとしてはカフェもあるので、少しずつですが町民の方の普段使いの場所として機能してきているのを感じてはいます。

大切なのは、いざという時に助けてくれる「盾」のような関係性を地域との間で築くこと



――ハハハホステルの運営や、トリノメ商店の立ち上げを行う中で、経営面の気付きや課題があれば教えてください。

(小松さん)おかげさまで、ハハハホステルは軌道にのりはじめました。やってみてわかったのは、観光客需要もありますが、ビジネスユーザーが結構多いことです。トリノメ商店に関しては、オープンしたばかりで、人件費や光熱費、材料費など引くと、まだまだです。来店数・席数と客単価でコスト算出するとわかりますが、小売店はなかなか大変です。将来的には、ここに来れば誰かに会える。暮らしている人たちが日常的に使える場所になって、当社と繋がれば、浦幌で何かができると感じてもらえるまでは成長したいと思っています。

(トリノメ商店 外観)


――ゲストハウスと商店/カフェを運営し、これからは(株)リペリエンスとしては、どんなことを思い描いていますか?

(小松さん)どちらも、お客さんが来る、というだけでなく、地域と交わりたい人が来るとか、浦幌に興味持ってくる人が来て、地域の人にとっても、地域外の人にとっても、活動拠点にもなりうる場所だと思っています。ここでコーヒーを淹れながら、地域の人とのつながりや情報を、外から来た人にも提供できる思います。例えば「浦幌で、飲食で起業してみようと思ってるんですけど、どうですかね?」みたいな話があったとして、「じゃあ、まずはここでやってみませんか?」みたいな話ができればいいですね。

――浦幌町のような、4,000〜5,000人くらいの町村は国内にたくさんあるなかで、小松さんの取り組みは、地域でビジネスを立ち上げる際のモデルの一つだと感じます。ローカルビジネスに取り組む際に、何が大事だと思いますか?

(小松さん)街との関係は、ビジネス的に言うと「刀」ではなく、「盾」だと思っています。失敗した時に助けてくれるかとか、セカンドチャンスを作ってくれるか、というのは、協力隊として3年間、町で働く中で思ったことで、その「盾」があったから起業できました。

ビジネス的に攻めの姿勢でどんどんステップアップして成長する企業もありだと思うんですが、小さな市町村に来る方の多くは、借金を背負って、それを返すために働きたいと思ってる人ではないと思うんですよね。そうではなく、「その地域で暮らしながら働く」という目的が先に来るのではないでしょうか。そういう人たちにとっては、毎日の売り上げが少なくても回っていく仕組みを考えるのがいいんだろうなと思います。

――地域との間に「盾」のような関係性があるかどうか、ですね。攻めの「刀」だけでなく、「盾」があれば、他の町で、別の人でも再現性があると思いますか?

(小松さん)はい。十分展開していけると思います。地域外から来た方だからこそ、できることもありますよね。

編集後記
トリノメ商店は元々金物屋の倉庫。トイレも上下水道も無い物件だったため、一時は購入をためらったそうですが、小松さんは「ここで諦めたら、他の人と一緒だ」と思い、購入を決断したそうです。さらには「自分たちの商売が厳しくなって、もし物件を売却することになっても、上下水道があれば、次にチャレンジする人がやりやすいかな」とも。果敢に取り組む姿勢と、他の担い手や地域への視点、どちらかだけではなく、どちらも大事なのだなと感じました。LANDは小松さんのチャレンジをこれからも応援します!(LAND高橋)

トリノメ商店の前で。(左:LAND高橋、中央:リペリエンス小松さん、右:帯広市経済部 岡田さん)



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ハハハホステル
トリノメ商店 instagram

協力

帯広市経済部、フードバレーとかち推進協議会


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