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株式会社いただきますカンパニー

井田 芙美子さん

#8「日本唯一の畑のガイドによる『農場ピクニック』から地域を変える!」

十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」! 日本で初めて!普段は入ることの出来ない十勝の畑を「畑ガイド」が案内する「農場ピクニック」を実施する、㈱いただきますカンパニー代表取締役の井田さんにお話を伺いました!トウモロコシやジャガイモを自分の手で収穫し、畑の中で食べられる魅力いっぱいのこの事業はどのようにして生まれたのか?今後どんなことを目指しているのか?井田さん、お聞かせください!

株式会社いただきますカンパニー 井田 芙美子さん

プロフィール
井田 芙美子さん(いだ ふみこ) 株式会社いただきますカンパニー 代表取締役

札幌出身。全道の羊飼いが集まる家に生まれ、農業に興味を持つ。どうせ学ぶなら農業の現場で学びたいという思いから帯広畜産大学へ進学。ネイチャーガイドや十勝観光連盟にて観光業に携わる。
出産を経て、「農業」「観光業」の知識を活かし育児と両立できる働き方を追い求め2012年3月開業、2013年5月(株)いただきますカンパニー設立。

十勝の畑から農業のイメージを変えていく「いただきます」の取り組み

(井田さん)「いただきますカンパニーの理念は『いただきますの心を育む』です。『農場ピクニック』事業を通じてその理念を伝えるためたくさんの方に伝えていきたいと思っています。畑のガイドによる体験観光の受け入れ以外にも、オンラインファームツアーや、小学校への食育出前授業、最近では大学生のフィールドワークとしての依頼も受け入れるようになりました」

――観光客以外に学生向けの事業も行っているんですね。学生は十勝の農業に対してどのような感想を持つんでしょうか?

(井田さん)「ニュースで見聞きする農業と、十勝の農業の『ギャップ』に驚く子が多いです。ニュースだと農業は後継者不足問題や肥料の高騰など課題を抱える暗い業界というイメージがあるようなのですが、私たちがガイドする農場には若い生産者や、自分の農業にビジョンを持って取り組んでいる方が多いので、十勝の農業の姿をみて驚いて帰ります。なにより、『働くことは楽しいんだ』っていう風に労働に対するイメージが変わる学生さんがいるのが嬉しいですね。こういう所から、十勝に対して良いイメージを持ってもらえたり、将来食や農業に関わってくれたらいいなと思っています」

大学生を対象としたオンラインツアーの様子

――畑のガイドではどのようなことを意識して伝えていますか?

(井田さん)「ガイドの中でお伝えすることは『十勝の野菜をぜひ取り寄せてください』ということではありません。『ハレの日』に食べるような特別な食事という風に見られてしまいます。そうではなく、『皆さんが普段使っているコンビニにも十勝の食材はたくさんあります』『すでに皆さんは十勝と繋がっているんです』という事を伝えるようにしています。カルビーのポテトチップスやじゃがりこも十勝産のジャガイモが使われていますしね」

――受け入れ農家さんはどのような感想をお持ちなのでしょうか?

(井田さん)「受け入れてくれる農家さんは、お客さんが自分の畑で楽しんでくれることが嬉しいと言ってくれます。私たちも、普段直接ふれることがない消費者の姿を農家さんに感じてもらうことができ、やりがいを感じています。 受け入れしてもらう農場の周りの農家さんも事業を続けるうちに、気にかけてくれてくれるようになったり、前向きに捉えてくれる方が増えました」

「私達のビジネスは他地域から引き合いもありますが、他地域で仕組みだけマネしてやろうとしても『強い思い』を持った人がいないと続きません。さらに言えば、畑とガイドは用意できても、伝える思いと、それを受け入れてもらえる度量のある地域でないとダメなんです。
ビジネスとして成功できたのは十勝だからこそ。その分私たちも、受け入れていただく農家さんが、過度な負担を感じない仕組みづくりを心がけていますし、信頼してもらえるように日々勉強しています」

二つの課題から生まれた「畑のガイド」

――そもそも、この事業はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

(井田さん)「一つは、農作物以外の農場の価値を伝えたいと思ったことです。たとえば景観・体験・特別な時間などです。
私は札幌出身ですが、実家は全道の羊飼いが集まるような家だったので農業に関心を持ちました。十勝の人はすごく楽しそうに生きていると感じたのを覚えています。それから農業を学ぶなら現場に行かなきゃという思いから帯広畜産大学に進学し農業を学びました。長年農業と関わるなかで、『ラベンダー畑は観光客が集まって価値になるけど、十勝の畑はあんなにきれいなのにどうして価値にならないんだろう。収穫した物には価値がつくのにおかしい』とずっと疑問に思っていました。学生の頃から『グリーンツーリズム』という言葉はあるのに全然観光客は増えていない。これには理由があるはずだと思い調べたのがきっかけですね」
「そこで分かったのが、農家さんは日々の農作業が忙しくて観光客の対応をしている時間がないということ。また、十勝の多くの農家さんはそれなりの収入があって副収入を必要としていないから農場を観光コンテンツにするモチベーションに繋がらない。だったら、当時ネイチャーガイドをしていた私なら伝えられると思ったんです」

――農業の現場に身を置いて、感じたことがベースになっているんですね。

(井田さん)「はい、そしてもう一つは、女性が知識、経験を活かせる場をつくりたいと思ったからです。
大学卒業後、私は、十勝の魅力を伝えたいという思いから観光業に従事しました。その職場では女性の正社員は初めてで、女性がキャリアを生かして働ける環境はまだなかった頃です。子育てとの両立は難しく、出産に伴い仕事を辞めることになったのですが、なぜ好きな仕事を辞めなければならないんだろうと悔しく思ったのを覚えています。
私の場合、ワンオペ育児を続けながら、これまで自分が身に付けた能力を活かして働く方法を考えたときに辿りついた選択肢が『創業』しかなかったんです。
私は創業という選択をしましたが、世の中にはせっかくスキルを身に付けたのにもったいない思いをしている女性が沢山いるのではないかと思いました。自分も含めてそういう思いをしている人たちが働ける場所を地方に作ろうと思ったのがもう一つのきっかけです」

――思いや経験が、今の事業にしっかりつながっていますね。

(井田さん)「10年農業をやってきて10年観光に関わった自分が子育てをしながらできることを考えに考えた結果『畑のガイド』という答えにたどり着きました。100枚は事業計画書を作りましたね(笑)。結局、自分にできる事、好きな事を組み合わせて、その時の自分に必要な、自分だけの仕事を作り出せたと感じています」

創業の想いを笑顔で語る井田さん

仲間と共に強く成長した10年間

――いただきますカンパニーさんは現在5人の正社員を抱える企業に成長されていますね。創業時から積極的に採用を進めるつもりだったのでしょうか?

(井田さん)「開業最初は自分一人が食べられれば良いという気持ちでやっていたのですが、事業を始めて2年目に成長に繋がったきっかけがあったんです。
帯広市の『フードバレーとかち』の取り組みが本格化したり、社会的に観光発信が取り上げられていたので、国の制度を活用してスタッフを雇用したんです。これがとてもいい経験になりました。
それまでは人を雇うと固定費が増えてしまうと考えていたんですが、誰かと仕事することの楽しさを感じたんですね。そこで、自分以外に3人雇おうと目標を決めて、今は5人の会社に成長しました。助け合ってパズルのようにハマる時もあれば、嚙み合わない時もありますが、十勝の農家の想いを知れば地域に対する尊敬の気持ちが湧くので自然と気持ちが一つになります。
今ナンバー2をしている白木さんは、最初は社風と合わないタイプかな?って思っていたんですが、今では私を支える最高の2番手になってくれています!」

設立当初のいただきますカンパニー

――創業されてから10年の間で大変だったことはありましたか?

(井田さん)「事業を始めるとき、自分ひとり食べられるくらいの需要はあるだろうと思っていましたし、地域に必要なことだと思っていたので、あまり不安は感じていなかったのですが、銀行などに事業計画を出すと、ほとんどの方に冬の収入の心配をされました。今では冬は『食育事業』で小学校への出前授業を行っています。
実際に事業を始めると、観光業には波があり、災害や社会情勢に大きく左右されることがわかりました。十勝で大型台風の被害があった年、ブラックアウトが起きた年、新型コロナウイルス感染症の影響で行動制限があった年、だいたい2年に1度は大きな打撃を受けていて、しかも災害が起きた時だけでなくその後半年はあとを引くんですよね。
そんな時、私たちを助けたのが『食育事業』だったんです。緊急事態宣言で人の流れが止まっても教育は止まらなかった。これはありがたかったですね。
新型コロナウイルス感染症の影響で、修学旅行の行先が変わったため、修学旅行生の受け入れ需要も増えました」

小学校で食育事業を行う様子

新たな挑戦!「いただきますランド」

――いただきますカンパニーの次の事業展開として、どのようなことを考えられているのでしょうか?

(井田さん)「これから目指していきたいと思っているのは、子供のころから心に描いてきた『いただきますランド』です。
私は今、札幌と帯広の2拠点生活をしているのですが、娘があと3-5年で巣立つんです。私の創業のきっかけの一つは『子育てしながらできる仕事』だったので、片方のモチベーションが無くなるんですね。
そこで、幼いころから夢見てきた、観光ではなく『暮らせる農場』に取り組むときかなって考えているんです。農村風景に暮らすって究極の贅沢だと思いませんか?都会にはそんな環境で子育てしてみたい人もいると思います。農場をシェアして暮らせるような環境を作りたいんです。田舎に土地を買って家を建てなくても賃貸のような感覚で暮らせる空間です。
できれば、その場所が私が悩んだような子育てに苦しむひとり親の助けになればいいなとも思っています。その農場には、親の都合でいつでも子供を預けられるサマーキャンプみたいな事業も作って、そこに住まない人でも利用できるようにできないかなと思っています。私はそこでおばあちゃん的な存在になれたらいいなと(笑)」

井田さんが夢見る「いただきますランド」

――そこにいる方と、井田さんの笑顔が目に浮かびます(笑)。

(井田さん)「食育事業として学校にお邪魔することがありますが、私たちの時代より貧困に苦しんでいる家庭が増えているように見受けられます。地産地消について教える時に、地域として生活の土台がしっかりしていない状態で、少し高いけど地元の物を食べなさいなんて伝えていけないと思ったのもきっかけです。まだ企みの段階ですが、私の事業で少しでも良い社会にしていけたらと思います!」

井田さんのチャレンジは続きます

これまでになかった畑のガイドという仕事を創り、新しい切り口から地域の魅力の発信を続ける井田さんと、いただきますカンパニーの皆さん。インタビューの中で強く感じたのは井田さんの事業に対する誠実さ、ひたむきさでした。「いただきますランド」という新しい構想が形になることで地域にどのような影響を与えるのか楽しみです!LANDはこれからも、いただきますカンパニーさん、井田さんの取り組みを応援していきます!

LINK

株式会社いただきますカンパニー

協力

帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会

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