十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
今回は、北海道の森林組合や森林所有者、農業者と連携してCO2吸収量の測定に関する実証実験を行い、CO2クレジットの取引を活性化させる仕組みの構築に取り組む、神上コーポレーション鈴木さんにお話を伺いました!
神上コーポレーション株式会社 鈴木 崇司さん
その前に予習しておきましょう!
CO2クレジットとは?
クレジットとは、再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の良い機器の導入もしくは植林や間伐等の森林管理により実現できた温室効果ガス削減・吸収量を、決められた方法論に従って定量化(数値化)し取引可能な形態にしたもの。
(環境省ホームページより引用し、一部改変)
神上コーポレーションでは、この定量化(数値化)し取引可能な形態にしたCO2クレジットの取引を活性化させることで、事業者側の温室効果ガス削減の取り組みを後押しし、環境への負荷を低減させることを目指しています。
神上コーポレーション鈴木さん
――御社は、特にIT分野における製品化実現に関するコンサルティング事業を行なってらっしゃいますが、北海道でCO2クレジットに関する事業を始めたのにはどのような経緯があったのでしょうか?
(鈴木さん)弊社では、ITやDX分野でのコンサルティングを得意としていますが、そのような分野での開発事業やノウハウを北海道に落とし込むということを考えた際に、やはり北海道で盛んな一次産業分野に貢献したいという思いがありました。そして、一次産業分野・環境分野にデジタル技術がどのように貢献できるかという観点から、まずはCO2クレジット取引を活性化させる事業を北海道において始めていきたいとの思いに至りました。
CO2クレジット創出のスキーム
――2013年、国がJ-クレジット制度(※省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度)をスタートさせ、この10年間でクレジット認証量も着実に増加し、取引価格も上昇してきています。一般的に、日本におけるCO2クレジットの取引はどのような状況なのでしょうか?
(鈴木さん)J-クレジット制度上でのCO2クレジットの取引価格については、特に再エネ発電由来の価格は上昇してきていますが、他国と比べてもまだまだ低い水準です。中小企業にとっては複数の企業間での小規模な削減活動を一つのプロジェクトに取りまとめないと、費用対効果の面から現段階ではまだメリットが薄いというのが現状であると考えています。また、煩雑な登録作業なども企業の負担となっていると考えられますが、今後J-クレジット制度がますます普及していくことを期待したいですね。
(鈴木さん)また、J-クレジット制度以外でも個々の企業間でCO2クレジットの取引が行われていますが、相対で価格が決まっているような状況です。その際の取引にあたっては、クレジットを購入する企業側のESGに関する取り組み方針にもよりますが、「どのような方法でCO2を吸収しているのか」「どこで生み出されたクレジットなのか」といった点が考慮されるようです。弊社としては、北海道においてCO2クレジットのサプライヤーとクレジットを購入する企業との間に立って、取引をスムーズにする役割を果たしていきたいと考えています。現在は、十勝の農家の方と実証実験を進めている段階です。
――CO2クレジットを購入する企業とは、具体的にどのような企業なのでしょうか?
(鈴木さん)現段階ではグローバルに展開する企業が主で、日本では一部の企業を除いてCO2排出量削減への意識がまだまだ薄いという状況にあります。しかしながら、今後は温室効果ガス削減への取り組みに消極的な会社に対してはビジネス上でもますます風当たりが強くなっていきます。アップル社がサプライチェーンも含めた100%のカーボンニュートラル達成を目指していますが、まさにそれがモデルケースですよね。また、CO2クレジット取引を活性化させるため、主にヨーロッパで導入が進んでいる「炭素税」についても今後日本での導入の議論が進んでいく可能性が高いと考えています。
――先般、東京証券取引所でも「カーボンクレジット市場」に関する実証実験が始まりましたが、参加する企業は様子見の姿勢が強く、あまり活性化されていないという報道もあります。
(鈴木さん)CO2クレジットを購入する企業側にとって、購入が自社の製品やサービスにどう繋がるかのメリットが感じづらい現状にあるのだと考えています。温室効果ガス排出量削減には、理念面だけではなく、各企業がビジネスライクに考えるような意識の変革が必要になってくるのではないでしょうか。
(鈴木さん)当日セミナーにご参加いただいた十勝の農家の方と共に実証実験を進めています。一般的に農場では土壌に有機成分を供給する等のために緑肥作物の「すき込み」を行いますが、その際にCO2の土壌貯留量を計測する実験です。土壌貯留に向いている作物は何か、北海道ではどのような作物であれば育つのか、また貯留量をどのように計測するのかといった内容を実証実験の中で検討しています。近年では、農業由来の温室効果ガスの発生について指摘されていますが、そのような問題に対し、温室効果ガスの削減ではなく、吸収という面で貢献していきたいとの思いがあります。緑肥作物の「すき込み」をCO2の土壌貯留に生かすという発想がこれまでにあまりなく、新規性があるものと考えています。
実証実験の様子
――最後に、北海道や十勝の皆さんに向けたメッセージがあればどうぞ!
(鈴木さん)環境をテーマに取り組むという意味では、北海道に大きなポテンシャルがあると考えています。私は全国の方々が参加する環境系のイベントにもよく出席しているのですが、上士幌町や鹿追町の取り組みの話題が度々取り上げられており、特に十勝の方々の環境への配慮の意識は高いものと考えています。本事業を始めるに当たって、まず最初にLANDにご相談に伺ったのもそのような背景があります。そういった環境への取り組みに対し、北海道の方々と協力しながらチャレンジしていきたいと考えています。また、我々の得意とするDXの分野でも、一次産業分野の方々も含めた北海道の皆さんのお手伝いができるような取り組みを、分野の垣根なく進めていきたいですね。
一人当たりの温室効果ガス排出量が、全国平均と比べて多いとされる北海道での生活。一方で、十勝では上士幌町や鹿追町を筆頭に、環境負荷低減に向けた先進的なプロジェクトが様々に進行しています。
冷静な口調で語る鈴木さんですが、一方で「北海道の方々と協力しながら環境への取り組みにチャレンジしていきたい」との熱い想いが込められていました。 またインタビューを実施して、企業や自治体の取り組みに頼るだけではなく、まずは個人レベルから環境負荷低減に向けた生活のあり方を考えていかなければならないとの思いを新たにしました。
LANDとしても鈴木さんの活動を応援していきます!
帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会
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