十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
今回は、ノーコード・ローコード(※)での自作アプリの活用を通じて農作業を効率化するとともに、農家がITを学び合えるコミュニティの構築を目指す、大崎農場の大崎さんにお話を伺いました!
(※ノーコード:プログラミングスキルが不要な、簡易なアプリケーション開発手法。ローコード:少ないプログラミングスキルで、ノーコードよりも柔軟性があり複雑なアプリケーション要件に対応できる開発手法。)
大崎農場 ⼤崎 真裕さん
プロフィール
⼤崎 真裕さん(おおさき まさひろ) 代表
1987年、帯広市生まれ。2010年に大崎農場に就農。2019年頃からノーコード・ローコードでのアプリ開発を始め、2022年には「ノーコード・ローコードで作る!QRを使った『じゃがいも収穫管理アプリ』の作り方」を出版。農場では、約30haの土地で、馬鈴薯・小麦・てん菜・豆類・長芋などを生産している。
農作業を効率化するための自作アプリの制作
――大崎さんは、農作業の効率化のためにノーコード・ローコードでの自作アプリを制作されていますが、具体的にどのようなことがアプリ上でできるのでしょうか?
(大崎さん)農作業に係る様々な情報整理、販売先や在庫の管理、「収穫量」「収入」「生産費」「在庫」をリアルタイムで可視化するといったことを自作のアプリで行っています。アプリの制作に当たっては、初めからこういうアプリを作ろうと決めているものではなく、仕事をする中で面倒な作業を効率化したいといった目的が見えてくるので、そのためのアプリのアイデアが浮かんできます。また、ITに関する勉強を進めていく中で、この技術が農作業にも使えそうだと結び付くこともあり、日常作業とITの勉強の両輪でアプリをどんどん作っていったというイメージですね。
情報管理のコアな部分については既存の営農管理システム(作業を行った日時や内容などを記録し、作物の収穫量や費用を管理すると共に、生産計画の策定や栽培技術の改善などに役立てるもの)やクラウド会計ソフトなどを活用していますが、それ以外の実際の現場で求められる作業効率化のための細かなものは自作のアプリを活用し、使い分けています。
また、私の自作アプリ制作の取り組みは将来的な事業化を目指しているものではなく、いわゆる「スマート農業」のようなインパクトを求めているものではありません。地道な事務作業を楽にするであるとか、その空いた時間で一度農業から離れて別のことをできるようにするといったことを目指しています。
大崎さんが制作したアプリ。点在する畑ごとの情報管理を効率化している
――どのようなきっかけでアプリ制作を始められたのでしょうか?
(大崎さん)十勝でもトラクターのGPS自動操舵システムなどのスマート農業が普及し始め、我々の農場でもそういった最新技術を活用していたのですが、技術の中身を理解せず漠然とその技術に頼っているということに不安感や危機感がありました。また、農家向けの既存のITシステムサービスの中には金額が高いものもあり、またシステムが複雑で家族経営の農業者には使いづらい面があったため、自分でなんとかできないかと方法を探った結果、2019年頃からノーコード・ローコードでのアプリ開発を始めました。元々私はITやパソコンが好きで、農業をやりながらITの勉強をしたかったという想いが根底にあったこともありますね。
――アプリ制作のツールとしてはどのようなものを使われているのでしょうか?
(大崎さん)元々はプログラミングをオンラインスクールで勉強していたのですが、その中でGoogleが提供するノンプログラマー向けのプログラミング言語”GAS (Google Apps Script)”に出会いました。そこから仕組みを理解していくにつれてノーコードにも関心が湧き、様々なツールを繰り返し使う中で”Glide”(ノーコードツール)が使いやすそうだということが分かり、それらを組み合わせて応用させていくことでアプリを制作しています。私が執筆した書籍「ノーコード・ローコードで作る!QRを使った『じゃがいも収穫管理アプリ』の作り方」では、そういった農家さんが比較的馴染みやすいツールを活用したアプリの自作方法を紹介しています。
大崎さんが執筆した書籍「ノーコード・ローコードで作る!QRを使った『じゃがいも収穫管理アプリ』の作り方」
農家がITを学び合えるコミュニティの構築に向けて
――大崎さんは農業現場でのIT活用についてSNSでも積極的に発信されており、また農家の方々がITを学び合えるようなコミュニティの構築を目指されていますが、それにはどのような想いがあるのでしょうか?
(大崎さん)農家さんの中には、スマホでどのように作業記録をつけるかといった細かな作業を効率化したいというニーズは多くあるのではないかと捉えています。また、ITに限らず、何かを学びたいとなった時に、農作業中でもイヤフォンで聞きながら勉強ができますし、オンライン学習は農業と相性が良いと考えています。そのように農家の方々が手軽に情報を得ることができ、ITのさわりの部分を学べてリテラシーを身につけられるような、互いに学び合いながら共同でアプリを作っていくといったようなコミュニティを構築していきたいと考えています。農家の方々がITについてもっと学び、そこから様々な情報が得られるようになれば、農業はより良く、魅力的なものになっていくのではないかと思います。十勝に限らず全国の農家さんを対象に、そのようなオンラインコミュニティを立ち上げる構想を温めているところです。
――アプリ制作は手軽に始められるものなのでしょうか?
(大崎さん)現在のノーコード技術を活用すれば、例えばLINEアプリを作るといったことは比較的ハードル高くなくできるのではないかと思います。そこからカスタマイズをしていくためには知識も必要となりますが、現在はオンライン上で豊富な学習環境が用意されていますし、勉強が面倒だから、難しいからという理由で諦めてしまうのはもったいないと感じます。だからこそ、オンラインでみんなで学び合えるコミュニティが重要であると考えています。
――十勝では、農業へのIT活用の現状にどのような課題があるとお考えでしょうか?
(大崎さん)アプリを活用して業務改善や効率化を図るということに関心を持っている農家さんは、十勝では現状で少ないと感じています。ITはあくまで手段の一つであり、それを使わなくても収益面での心配はないということなのだと思います。むしろ、本州の施設園芸のような小さい規模でやられている方々の方が、現場でのアプリの活用を積極的に行っているという印象です。
一方で、それぞれの農家が使っている営農管理システムが統一されておらず、データが同期できない等の非効率な状況が発生しているという課題もあります。私は農家のためのシステムは農家自身が考える必要があるとの考えですが、農家の方々もITの知識をつけ、効率化への解決策を考えていく必要性を感じています。
農家の生き方にはもっと多様性があっていい
――自作アプリの農業への活用は、これから就農を目指す方々に対して新たな働き方の価値や選択肢を提示できるのではないかと考えますが、その点についてはいかがでしょうか?
(大崎さん)農業にアプリを活用できるという事例が増えていけば、若い方々にとっても新しく農業を始めやすくなるのではないかなと思います。元々システム開発をやっていた方が新規就農するという事例も増えてきていますよね。また、農家が積極的に情報発信を行なって、農業の現場の情報が広く知られるようになるということも重要だと思いますね。
一方、私のように農業を継ぐという方にとって、ITは農作業だけではない、多様な働き方を実現するための手段の一つになるのではないかと捉えています。実家の農業を継いでそれ一本でやっていくというのは正直しんどく、悩む時期もあると思います。外の世界の価値観や生き方、働き方に触れる中で、自身の人生や働き方を捉え直していくことも必要になると思いますが、私の場合は農業とはまた別の分野であるITの勉強を仕事に結びつけることができたことで、このやり方でいいんだと思えるようになりました。農家の生き方にはもっと多様性があってもいいと思います。それが巡り巡って、後継者不足の解消に結びつくという可能性もあるのではないかと考えています。
――最後に十勝の方々へのメッセージをどうぞ!
(大崎さん)ありがたいことに私の書籍がきっかけとなり、実際に農場に見学に来られ、社内でGlideの運用を始めたという十勝の事業者さんがいらっしゃいます。また、十勝の中でも、ITをお互いに学び合おうという人たちが少しずつ増えてきています。十勝も広いので、普段はオンラインでゆるく繋がりながら、年に何回かオフラインで会う場を作るといったように、農業以外でも様々な業種の方々が集まって情報交換できるような環境ができ、十勝発のノーコード・ローコード文化ができていけば面白いですね。
スマート農業技術の発達・普及により農作業はどんどん効率化してきていますが、一方で大崎さんの活動はそれでは拾いきれない部分の課題を補完するものです。自作アプリを使って身の回りの細かな作業を効率化していくことで、農作業の中に「楽しさを見出す」という大崎さんの姿勢は、未来の農業のスタイルの一つではないでしょうか。
また、今後ITを学び合えるコミュニティが発展し、十勝から新たな文化が生まれていくことを期待したいです。
LANDとしても大崎さんの活動を応援していきます!
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帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会
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