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川瀬 千尋さん

#34「環境性と経済性を両立させる自伐型林業と複数の事業を並行して進めるリスク分散型デュアルビジネス!」

十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!

今回は、十勝の山林で「自伐型林業(じばつがたりんぎょう ※後述)」を推進しながら、コンテナを活用したきのこの栽培や、山林の売買・賃貸事業などの複数の事業を展開するminotakeの川瀬さんにお話を伺いました!

minotake 川瀬 千尋さん

プロフィール
川瀬 千尋さん(かわせ ちひろ) 代表

1987年、北海道様似町生まれ。自衛隊や不動産会社などに勤務した後、2020年より池田町地域おこし協力隊の林業推進員として自伐型林業の推進を担当。地域おこし協力隊在籍中より、”minotake”として樹木の間伐や薪などの素材販売を行う事業を始め、協力隊卒業後の2023年7月に株式会社川瀬不動産を設立。宅地建物取引士やファイナンシャルプランニング技能士1級の資格も有する。

100年後、200年後を見据えた山林づくりの醍醐味


――川瀬さんが池田町の地域おこし協力隊在籍時から取り組まれている、minotakeでの事業内容について教えてもらえますでしょうか?

(川瀬さん)minotakeでは、元池田町地域おこし協力隊の頓所氏と共に、樹木の間伐山林の作業道敷設薪などの素材販売を行っています。また、高木・大木など市街地の危険な木をロープワークやツリークライミングの技術を使って人力で処理する「特殊伐採」も行っています。

――minotakeの中で取り組まれている「自伐型林業」とは、どのようなものなのでしょうか?

(川瀬さん)自伐型林業は、対象区間の木を一度に全部伐採する「皆伐(かいばつ)」とは違い、山林の手入れ(間伐)を行いながら山林を育てていき、長期的に良い木を育てて収穫するという考え方で森づくりを進めていきます。長期に渡って繰り返し手入れを行うことで、太さや高さがバラバラの木が育っていくため、良い品質の木が継続的に収穫できる森林環境ができ、山の価値が高まっていきます。自伐型林業はそのように、100年後、200年後の山林の姿を見据えながら整備を行なっていくものです。また、5月には「作業道を整備する」、11月には「ほだ木(椎茸栽培用の原木)作りを行う」といったように、ある一定の期間に集中的に森に入って作業を行うため、大規模な重機を導入する必要がなく、低リスクで始められるというメリットがある一方、作業時期が限られるため、収入面では他の仕事との兼業が必要ともなります。
 十勝は平野部が多く急勾配の山林が少ないため、手入れがしやすいという特徴があるのですが、道東では自伐型林業を行なっている林業家の方が非常に少ない状況です。それでも最近では、新たに自伐型林業を始めたいという方から作業道敷設の方法や補助金申請に関してのご相談をいただくこともあるため、今後はこの地域で自伐型林業を広めていくための活動を行なっていきたいと考えています。

特殊伐採現場の様子



自伐型林業と並行して複数の事業を行い、経営リスクを分散させる


――今年からはきのこの栽培事業も始めたとのことですが、どのような事業内容なのでしょうか?

(川瀬さん)元々私が山菜やきのこが好きだったこともあり、「庭やたにぞえ」の谷沿氏と共に、ハコノコという名称でコンテナを利用して特用林産物のきのこを栽培しています。現在はその第一弾として、「生きくらげ」の栽培を行っています。きくらげの栽培は、湿度を80%以上に保ち、二酸化炭素濃度を一定以下に抑えた環境を用意する必要があるのですが、ハウスよりもコストが低く、頑丈で管理もしやすいコンテナを活用しています。今後、まずは十勝管内での販売を予定しています。
 現状では国内で流通している乾燥きくらげの99%が中国産なのですが、ハコノコの生きくらげは函館から菌床を仕入れているため、純粋な道内産となります。コリコリというよりもサクサクといった独特な食感で、ほぼ食物繊維でカロリーもほとんどないといった特徴があります。

ハコノコのメンバー


――川瀬さんは、昨年の「十勝アグリ&フードサミット」にご登壇いただいた際、「ボルチーニ祭り」を開催したいと仰っていましたが、レクリエーション面からの山林活用の取り組みが着実に進行しているのですね。その他、「川瀬不動産」ではどのような事業を行なっていく予定なのでしょうか?

(川瀬さん)川瀬不動産は、不動産×林業がテーマの不動産事業です。広葉樹林・放置林に特化した山林売買の「十勝きこり不動産」プライベートな野営ができる山林賃貸「きこりの遊び場」間伐材使い放題の薪ストーブ付き宿泊事業「きこりの家」を行なっていく予定です。
 針葉樹は太く育てても市場での取引価格の上限が決まっている一方、広葉樹は太く育てれば数百万円までになるなど高額になりやすい傾向にあることから、川瀬不動産では長期的な資産価値が見込まれる広葉樹林や放置林に特化した事業を行なっていきます。また、ハコノコや川瀬不動産の事業は、minotakeでの自伐型林業と並行して行う、経営リスクを分散させるための事業でもあります。

2022年9月に行われた「十勝アグリ&フードサミット」の様子。左側は、池田町で共に自伐型林業を行っている冨山商店の冨山太一氏


――山林にはどのような活用ニーズがあるのでしょうか?

(川瀬さん)山林活用のニーズは多くあるとの感触を持っており、例えば白樺の樹皮を求めている方や、近年ではキャンパーの方からのプライベートキャンプでの活用ニーズもあります。自分専用のキャンプ場は欲しいけど買うことまでは躊躇するといった方にとっても、月額5,000円であれば借りたいという声も多くいただいています。また、池田町には一棟貸しで泊まることができる民泊施設が少ないため、夏のワーケーションや冬の北海道体験を味わうために「きこりの家」に宿泊するという需要もあるのではないかと考えています。
 これまで、山林については不動産会社から用途や活用方法を提案することが難しく、値段をつけることが難しかったという状況がありました。我々としては山林の所有者と利用者との間に入り、山林の不動産としての資産価値をしっかりと見極め、売買や賃貸を円滑化していく役割を果たしていきたいと考えています。その中で利用者の方々に対し、我々から自伐型林業のアプローチでの山林管理についてお伝えすることや、山林の資産運用面でのサポートを行なっていくことをイメージしています。


「山林の流動化」を目指し、環境性と経済性を両立させた山林の整備・活用提案を行う


――平野部の多い十勝では、山林や林業にあまり馴染みのない方も多いのではないかと思いますが、山林の管理に当たっては現在どのような課題があるのでしょうか?

(川瀬さん)山林を所有しているが、実際にどこに存在するのかが分からない、または場所がわかっても具体的にどこまでが自分の所有地なのかわからない、また譲り渡したいがどのような手続きが必要になるかが分からないという方が多く、行政も介入できず放置されている山林が多くあります。それはそれで自然の生態系が壊されないという意味では問題がないのかもしれませんが、一方で人間の手の入らない山では人間と野生動物の境界が無くなってしまうという問題も出てきます。
 また、山林の適切な管理は防災の面でも重要です。計画性のない森林伐採によってはげ山になってしまうと、山の保水性が低くなり、雨が地面に直接当たって土が削られ、深刻な土砂災害の原因となってしまいます。また、作業道の敷設方法も水の排水には重要です。私たちは樹間を開けすぎない程度に2.5〜3メートルの幅の道を敷設するのですが、100年後もその道を使っていくということを見据えて道を付ける必要があります。
 私が目指しているのは「山林の流動化」ということなのですが、上記のような課題の解決に向けて山林の利活用が活発化されるための事業を行なっていくと共に、山林の適切な管理に関するアドバイスをしていきたいと考えています。

山林の作業道


――最後に十勝の方々へのメッセージをどうぞ!また、川瀬さんの地域おこし協力隊としての経験を元に、現役の協力隊の皆さんやこれから地域おこし協力隊を目指す方々にアドバイスがあればいただきたいと思います!

(川瀬さん)日本ではかつて、農地の裏山を「薪炭林」として耕作者のためのエネルギー源として利用していたという歴史があり、十勝の農家さんが山林を所有しているというケースが多くあります。私はそのような十勝の農家さんなどが所有する山林について、環境性と経済性を両立させた活用提案を行なっていきたいと考えています。例えば、山林の環境の中で喫茶店を開くであるとか、椎茸を原木で栽培するといったような、様々な提案ができるのが私の強みであると捉えていますので、ご関心があればぜひお声がけいただきたいですね。
 また、地域おこし協力隊の方々へのアドバイスとしては、任期期間中からぜひご自身の事業を始めるべきだと思います。私の場合、1年目は山林の管理に関する技術の習得を行い、2年目には実際に樹木伐採の事業を立ち上げると共に、その他の事業でもなるべくリスクを抑えて収益を上げるために様々な事業のトライアルを行ってきました。そして、3年目にはそれらのトライアルから選択したものを事業化していきました。3年の任期は案外短いと思いますし、協力隊の活動での収入がある期間を活かして繰り返しチャレンジを行っていくのが良いのではないかと思います。



川瀬さんの事業内容は、自衛隊時代に培われた体力や、林業や不動産分野での知識・経験、また十勝での人脈をフルに活用した複数の事業を、自伐型林業の取り組みと並行して行うものです。
そのように、リスク分散を行いながら複数の事業を並行して進めていく姿勢は、金融の知識も豊富な川瀬さんらしいスタイルであり、現在広がりを見せているデュアルビジネスを地方において実現する一つのあり方であると感じました。

LANDとしても川瀬さんの活動を応援していきます!

LINK

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ハコノコ

川瀬不動産


協力

帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会


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