十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!南十勝で半世紀以上にわたり苗木づくりを手がけてきた大坂林業。大坂林業2代目代表の松村幹了社長に、林業の将来と大坂林業の挑戦について伺いました。
有限会社大坂林業 松村 幹了さん
プロフィール
松村 幹了さん(まつむら みきのり) 有限会社大坂林業 代表取締役香川県東かがわ市出身。帯広畜産大学畜産学部家畜育種学を修了後、米国オレゴン州に農業研修生として留学。友人の紹介で大坂林業のアルバイトとして1996年に入社。2001年に同社役員、2019年に同社代表取締役に就任。
――大坂林業とはどのような会社ですか?
(松村さん)大坂林業は主に苗木を育てる「苗畑」事業を行っている会社です。木は植えられてから約50年で伐採のタイミングを迎えます、伐採後そこに供給する苗を育てるのが私たちの仕事です。北海道・十勝で半世紀にわたり、針葉樹、広葉樹を含む多種多様な樹木の苗を育ててきました。年間200万本以上の樹木の苗を、一本一本丁寧に育てています。
大坂林業は育苗以外にも、樹木の伐採や間伐、木材加工を行う部門も有しており、木を「植える」→「育てる」→「伐採する」→「加工する」→「植える」という樹木の成長サイクルに合わせた総合的な事業を行っています。
──松村さんが大坂林業の社長に就任されるまでの経緯を教えていただけますか?
(松村さん)私は香川県出身で、北海道が好きで大学から北海道に来ました。帯広畜産大学在学中は漠然と人と自然の間に立つ仕事がしたいと考えていたのですが、大学院修了時に1年間アメリカで農業実習生として働き、そこでナーサリーという植物の苗や種を育てる部門があることを知り関心を持ちました。帰国後、後輩が隣町の喫茶店で大坂林業のアルバイト募集のチラシを見つけて教えてくれまして、苗畑作業のアルバイトを始めたのがきっかけです。その後、正式に社員となり、大坂林業が個人経営から法人経営に切り替わったタイミングで役員になり2019年に代表取締役社長になりました。
──アルバイトから社長になられたなんて夢がありますね!松村さんが社長になられた際に大きく改革されたことはありますか?
(松村さん)2010年頃からコンテナ苗という新しい生産方式を導入しました。農業でいうと畑で栽培していたものを施設栽培に切り替えるようなイメージですね。生産方式自体は大きく切り替えたのですが、当社では元々施設園芸的なポット苗という製品を扱っていたので想像していたよりも現場の社員からのハレーションは少なかったです。
他には、苗畑は季節性が高く、北海道の冬の4か月間は作業をしようと思っても凍結してしまい難しいので、社員を何とか通年雇用していくために苗畑の作業を見直し分解して冬季間に屋内でできる作業を生み出したり、大型冷蔵庫や定温庫を導入するなどの設備投資を行い、苗が凍結する前に倉庫に入れて季節をずらして作業ができるように工夫しました。
──通年雇用化のために様々な改革に取り組まれたんですね。林業というと担い手不足が全国的に取り上げられるなど課題が多い業界だと聞きます。現在の業界のトレンドを教えてください。
(松村さん)現在、林業業界は「伐る周期」に入っています。木材利用のトレンドとして50年ほどで伐られます。今は、ちょうど高度成長期に大量に伐採しその代わりに植林した木が成長して、伐るタイミングなんですね。伐るという事はまた新しい苗を植えるという事なので、木の苗のニーズは高まっています。
また、環境負荷の観点もあり、世界的にも木材を使っていこうという流れは広がっています。木造住宅は少なくなってきていますが、日本でも木造のビルを作ったり、ヨーロッパでも木造高層建築物が増えてきています。国としても環境負荷低減に助成するカーボンクレジットなどの制度を拡充させてきており、防風林の植樹や緑化を進める企業も増え、追い風が吹いているような状態ですね。
──大坂林業は人材確保には苦労されているのでしょうか。
(松村さん)有難いことに現在、弊社には18名の正社員がおり、平均年齢は29歳なんです。これは業界でも珍しく、地元の農業高校からのインターン生を積極的に受け入れるなど弊社を知ってもらう機会を増やしていることが要因の1つかと思います。
また、私は北海道中小企業家同友会とかち支部に入っていて他業種の社長と関わることも多いため、給料体系や雇用条件など林業だけでなく他業種も見渡しながら設定していることも良い結果に繋がっているのではないかと思います。正社員以外にも季節労働で雇用している熟練作業員もおり、熟練作業員から若い世代へのノウハウ継承が業界の中では上手く行われている方だと思います。
──多くの若い社員を抱えられて特に意識されていることはありますか。
(松村さん)若い社員が働き出して、自分の会社だけが良ければいいというわけではない事を強く感じました。働いてくれる人たちが買い物したり遊んだりして生活する地域が楽しくないと職場定着にもつながりません。
実は当社は林業以外に、幕別町・忠類にある「白銀台スキー場」の食堂事業も行っているのですが、これは地域を盛り上げていくことが必要と強く感じたため継続している事業です。若手社員に毎年担当を決めて店長としてメニュー開発から関わってもらっています。やってみて強く感じることですが、全く畑違いのこの事業が社員の成長に一役買ってくれています。我々は普段BtoBの取引を行う会社ですが、消費者と関わるBtoCの事業に触れなくては人材が伸びていかないと思っています。地域のために始めた事業ですが、社員の勉強の場にもなっています。
──大坂林業は2023年に帯広市の木材加工会社、大正木材を事業承継されましたよね。どうして事業を引き継ぐことにされたのでしょうか。
(松村さん)実は十勝地域にはもう大正木材以外に広葉樹の製材を行える会社がなかったんです。地域に製材できる会社がないと、この地域の木材は旭川の市場に集約されることになります。旭川まで木材を運ぶとすると運送コストが多くかかってしまうのであえて製材せず、十勝でも加工できるチップにする方が効率的という判断する方が増えてしまいます。木材として市場に出れば価値があるのにチップになってしまうと安価で取引されてしまうので、地域にとって適性価値で販売できないことは経済損失が大きいと考えました。地域の林業の中で、細く弱っている部分を繋ぐ必要がある感じ、引き継ぐ決断をしました。
結果、大正木材の施設も引き継いだことで、林業サイクルの「植える」「育てる」「切る」「加工する」のサイクルのすべてを一社で完結させることが可能になりました。本州にはトータルで行える企業がありますが、北海道ではおそらく弊社だけだと思います。
──会社として新たに取り組もうとされていることはありますか?
(松村さん)「繋ぐ、繋がる」がキーワードだと思っていて、苗の生産者と森林組合など林業関係者同士は繋がっているものの、消費者と生産側が繋がれていないと感じています。山には勝手に木が生えてくると思っている方もいます。そこで積極的な情報発信であったり、製材による加工品を通じて消費者とつながっていけないか模索しています。
その為の手段の一つとして、デジタルと林業の掛け合わせで何かできないか考えており、木が加工されていく様子を取り上げたYoutube動画の配信に弊社でも取り組んでみようと考えているのと、木材の木目をデジタルデータにしてメタバース空間などデータ活用ができないか検討しています。
──連携していきたい他業種はありますか?
もし今後他業種と連携するとすれば、ロボット関係やIT関係の事業者と連携したいです。今も苗畑はロボットを導入していますが、絡み合った根をほぐす時など人間の手が必要な場面はまだまだ多いです。機械でできる仕事を増やし人がやるべき仕事に注力できる環境を作りたいです。製材の分野はIT分野と連携して人の手で行っている技術の習得と記録ができればと思っています。
──これからの林業を取り巻くビジョンについて教えてください。
(松村さん)各地域の森林管理の方向性は地域ごとに5年くらいの計画を立て管理していますが、海外と違い日本は個人の山林所有者が多いのが特徴です。相続などで山林所有者が移ることが良くありますが、山の手入れができる人を見つけられない場合、相続を嫌がり自治体に山林を寄付する方が増えてきています。
つまり市町村林が管理しなければならない森林が増えているわけですが、かつては道庁などの専門官が森林管理を行ってきたものが、市町村に管理権限が下りてきています。市町村だと短期間で人事異動がありノウハウが受け継がれず、地域の森林全体を見渡した管理ができる人材が少なくなっているのも事実です。
そうなってくると自治体が保有する森林の全体管理も民間事業者に委託される日も近いように思いますし、本州では林業の担い手が不足しすぎて、育苗事業者が不在の県もあるので、日本全体として、林業従事者の需要はさらに高まっていくのではないかと感じています。
──今以上に林業人材が必要になっていくんですね。
(松村さん)以前から言われている事ではありますが、林業が山村地域の振興のキーになると考えています。1970年頃は終戦後の復興政策として大量に山の木を伐採しました。すると災害が頻発したので、地域の「緑を守る」流れになっていきました。伐りすぎたから植えましょうと。木が育つまでには時間がかかるので、それまでの間は輸入に頼ることになり、かつて林業が盛んだった山村が疲弊し、木材を運ぶために活用されていた鉄道などもなくなっていきました。林業が全ての理由ではありませんが、輸入による地域産業の置き換わりは間違いなくありました。
現在衰退してしまった山村の山は「在庫はあるが、人手が無い」という状態なので、山村地域の振興に眠っている山林資源が一つのキーになると考えています。
木材利用や環境負荷だけでなく、野生動物の住処や生物多様性の問題など森林を取り巻く様々な関わり方は広がっていますが、森林に関わるプレーヤーがまだまだ足りません。集まればできることが増えていくのでどんどん参入する人が増えていってほしいです。
自社の利益だけでなく、社員の生活環境や地域の価値を守りながら挑戦を続ける松村さん。今後人口減少が加速する中、地域を持続的に支えていく一つのカギが林業にあるのではと考えさせられた取材でした。大坂林業さんの今後の展開に、引き続き注目し、応援していきます!
帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会
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