北海道帯広市の事業創発拠点「LAND」

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2018

BLANK HARD CIDER WORKS/有限会社足寄ひだまりファーム

沼田正俊さん

#30「やりたいことをやって、仕組みを作る。だからアクセルが踏める」

今回は、十勝・足寄町で畜産を主体に、畑作、野菜直売、カフェ運営を行いながら、りんごの生産とハードサイダー(シードル※)醸造を開始した、有限会社足寄ひだまりファーム 代表取締役の沼田さんにお話を伺いました!
※シードルとは、りんごを発酵させて醸造する発泡性のお酒です。“果実を醗酵させてできた酒”を意味するラテン語「シセラ(Cicera)」が語源と言われています。

BLANK HARD CIDER WORKS/有限会社足寄ひだまりファーム 沼田正俊さん

プロフィール
沼田正俊さん(ぬまた まさとし) 代表取締役

1977年足寄町生まれ。帯広畜産大学卒業後、実家の農場に就農。その後数年で事業継承し、ホルスタイン牛「愛寄牛(あしょろうし)」の肥育、子牛の育成預託、畑作(じゃがいも、スイートコーンなど)、カフェ「café de camino」の運営を行う。2020年より、自社農場にりんごの木を植え始め、ハードサイダー(シードル)事業を開始した。2023年、ハードサイダー醸造所「BLANK HARD CIDER WORKS」を足寄町内に開設。自社製ハードサイダーの販売をスタートした。

知識経験ゼロ。それでも「作りたいから」スタート。


――2020年頃に、りんご栽培を始めてハードサイダー(シードル)を醸造する、という構想を初めて聞いた時は、意外というか、内心、手を広げ過ぎじゃないかとちょっと心配に思ったのを覚えています(笑)。ノウハウも何もないところから始めていらっしゃいましたね。

(沼田さん)まさに、知識も経験もゼロからのスタートでした(笑)。とかち財団・LANDに相談に乗ってもらったりした後、「十勝人チャレンジ支援事業」を活用させてもらい、ハードサイダーの試験醸造や、長野などの先進地視察や醸造の研修を受けました。会社としては、畜産を主体に、畑作と、野菜の直売を家族4人で行っていましたが、2020年は新たにカフェを立ち上げてスタートした時期ですね。

――りんご農家さんがハードサイダー醸造を始めたり、ワイン醸造などから派生してハードサイダーを作る、というのはよくありますが、ノウハウが無い畜産主体の農家さんが始めるのは例がないのではと思います。なぜ始めようと思ったんでしょうか?

(沼田さん)りんご栽培も醸造も、確かにノウハウが無かったんだけど、最初はみんなそうなんですよ。ノウハウが無いと始めちゃいけないわけでもない。始めた理由は、シンプルで、作りたかったからです。自分が飲みたかった。

――市場ニーズを踏まえて…というマーケティングセオリーからの発想ではなく、「自分が飲みたいお酒を作りたい」、と。

(沼田さん)そうです。僕はビールが苦手で、アルコールにあまり強くないんです。でもみんなで飲む時って、乾杯で「とりあえずビール」じゃないですか。ビールじゃない選択肢として、ハードサイダーも乾杯に選ばれるお酒だし、それを自分で作りたかった。


りんご収穫まで3年!スピードに対する危機感


――醸造家でもなく、りんご生産者でもない、消費者視点というか「個」の視点、「N=1」の視点ですね。と同時に、畑作生産者であることで、経験は無くとも、りんごを生産するイメージはできたのでは。

(沼田さん)そうですね。畑作でスイートコーンや野菜類の生産はずっと続けていて、野菜直売所の経験もある。野菜を作っている農地でりんご栽培ができると思っていました。それと、生食用のりんごは色味や傷など外観上求められる水準が高いですが、加工用はそこまででもない。生食用りんご産地に多いような、枝が伸びて1本の大きな木にハシゴに登りながら作業する形ではなく、ワイン用ぶどうのように、低く、横に枝を誘引するような植え方をし、作業性を高めています。
でも、やっぱり農業って、時間のかかる産業なんですよ。だから、構想してまず始めたのが、りんごの栽培。植えてから3年目の今年(2023年)、ようやく沢山収穫できそうです。

――マーケティング戦略ありきではなく「作りたいから作る」だと、最初から勝算があったわけではないと思いますが、それでも経営判断として「新事業をやる」とアクセルを踏み込むには、すごく勇気がいるように思います。

(沼田さん)勇気というか「今やるしかない」という思いですね。りんごの木も植えてから収穫できるようになるまで3年かかるし、町の人口も減っていく。それと、自分だってどんどん歳を取るし、自分も会社も、体力がある時に動かないといけない。そういう「今やるしかない」という、スピードに対する危機感があります。


自分が動けなくなっても仕組みは残る。だからアクセルを踏める。


――カフェ事業にしても、ハードサイダー事業にしても、投資額もそれなりに大きいものだと思いますが、不安な思いはなかったのでしょうか?

(沼田さん)全く不安が無いわけではないです。なので、常にどんな状況でもアクセル全開ではなく、無理なことはしません。例えば、醸造所の設備・スペースとして、飲食営業できる形なんですが、今はまだやらない。体制が整ってからです。そこは経営判断ですね。もちろん判断が常に正しいわけではなく、当然失敗もあるし、ダメだと思ったら損切りもします。

カフェ事業にしても、ハードサイダー事業にしても、万が一自分が動けなくなっても、建物や設備などの資産は残ります。自分以外の誰かが事業を続けて利益を出す仕組みは残る。そういう風に考えれば、大きな投資を伴うことでも、アクセルを踏み込めます。

――畜産と畑作、農業部門の拡大成長という道筋ではなく、カフェ事業、そしてハードサイダー事業と、新たな別事業を立ち上げています。多角化することのメリットは、どのように感じていますか?

(沼田さん)会社の事業全体のシナジーマップを描いているんですが、ハードサイダー事業も他事業との組み合わせはしっかりイメージできていました。

多角化することのメリットの1つは、会社として、年間の業務を全体で平準化できるところです。畜産はもともと通年で業務が平準化していますが、畑作は時期により業務の変動が大きいです。カフェ事業も季節による変動があります。その一方、ハードサイダー事業は、醸造タイミングをコントロールしやすく、自分たちのやりやすい時期に醸造できる。他の事業と組み合わせることで、平準化ができる点はメリットです。

もう1つは、それぞれの事業が影響しあって相乗効果が生まれることです。新事業をやることで、新たなお客さんやつながりができる。そうやって出来たつながりの先で、畜産や畑作の事業がつながっていく事もあるし、その逆もあります。


楽しいと思えることをやる。作っている人が楽しくないと売れない。


――カフェ事業や、ハードサイダー事業など、地域内外の方と新たにつながり、地域にポジティブな影響がある事業だと感じますが、沼田さん自身は足寄町という地域に対してはどんな思いをもっていますか?

(沼田さん)自分のやっていることは、「まちおこしが目的」とは思ってないです。でも、カフェにしても、ハードサイダー醸造にしても、自分の住む足寄町でやりたい。自分がやりたいこと、楽しいと思えることをやるのが基本。作っている人が楽しくないと、売れないですよ。その結果として、足寄町に来る人が増えたら嬉しいです。

来る人が増えて、その方達が足寄町で楽しんでもらえたら、消費も増えるだろうし。町おこしが目的ではなくて、結果としてそういうことにつながっていけばいいかな、と思っています。

ハードサイダー事業を始めてから、地元の方が「自分が栽培しているりんごを、原料に使って欲しい」という声をかけてくれました。農地の利用方法として、これからりんごの生産も増える可能性も見据えています。そうやって、お酒を造ることが文化として地域に残っていったらいいなと思っています。


――ここ3、4年で2つの新事業を立ち上げました。これから10年ほどの時間軸の中で、どんなことを思い描いていますか?

(沼田さん)足寄にホテルを作りたいです。泊まれる場所が増えれば、町の滞在時間が長くなって、楽しんでもらえることも増える。それと、地元の子たちの就職先を作りたい、というのも、ホテルをやりたい理由です。中学とか高校を卒業して、地域外に出ていくのはしょうがないですが、100人のうち1人でも2人でもいいから、戻ってきてくれたら嬉しいです。その時に大事なのは、仕事。

まちおこしにしても、人を助けるにしても、お金がないと助けられない。事業を立ち上げて、利益を出して、それを還元していければと思っています。

編集後記
沼田さんは、ハードサイダー事業の動機について「作りたいから作る」と非常にシンプルに、パーソナルな観点から表現していますが、根底にあるのは地域の未来への想いであり、企業経営者としての意思であると感じました。カフェをスタートさせてすぐにハードサイダー事業を立ち上げ、今度はホテル事業の構想。自分がやりたいことをやって、仕組みを作り、それが結果として地域に良い影響を与えていく・・・。LANDスタッフも非常に刺激と影響を受けました。これからも、足寄ひだまりファーム/BLANK HARD CIDER WORKSさん、沼田さんの取り組みを、LANDも応援していきます!!

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BLANK HARD CIDER WORKS
足寄ひだまりファーム
Café de Camino(instagram)
令和2年度 十勝人チャレンジ支援事業 採択時記事(とかち財団)

協力

帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会


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