北海道帯広市の事業創発拠点「LAND」

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十勝品質事業協同組合(十勝プライド)

三浦 さなえさん

#67「競争ではなく共創へ。経験と技術を集約した「十勝のラクレットチーズ」を全国に届ける」

十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!

今回は、十勝品質事業協同組合三浦さなえさんにお話を伺いました。十勝のチーズ工房のまとめ役となり、日本初となる「共同熟成庫」で十勝を代表するチーズ「十勝ラクレット モールウォッシュ」を製造・販売しています。

近年は「十勝のチーズ」をより多くの人に届けられるよう、商品開発や販路拡大など多方面に事業を拡大しています。十勝のチーズの未来を背負うキーパーソンにお話を聞きました。

(聞き手:帯広市相部、LAND小田)

十勝品質事業協同組合(十勝プライド) 三浦 さなえさん

プロフィール
三浦 さなえさん(みうら さなえ) 統括マネージャー

十勝品質事業協同組合統括マネージャー。高校卒業後、複数の企業を経験したのち、結婚・出産を機に仕事を一時離れる。数年後、幕別町の新田牧場乳製品部に入社。チーズ工房店長を務める。2018年、十勝品質事業協同組合に入社。同年より現職。

日本初の「チーズの共同熟成庫」で「十勝のチーズ」を作る


――まずは、十勝品質事業協同組合(十勝プライド)の基本的な事業内容について、お聞かせください。

(三浦さん)私たちは、十勝のチーズ生産者による協同組合です。十勝のナチュラルチーズのおいしさを全国の皆様にお届けするために、組合員工房が集まって2015年に設立されました(取材時点10工房)。2017年には、十勝川温泉エリアに日本初となる「チーズの共同熟成庫」が完成し、現在は6箇所の工房からお預かりしたチーズを熟成管理しています。それぞれの工房がもつ経験や技術を集めてできた「地域統一のブランドチーズ」、それが「十勝ラクレットモールウォッシュ」です。

――「十勝ラクレット モールウォッシュ」の特徴について、教えていただけますか。

(三浦さん)ラクレットチーズ特有の工程である「磨き」の作業に「美人の湯」とも呼ばれる十勝川モール温泉水を使用していることが1番の特徴です。世界的に見ても希少な植物性の温泉水を使うことで、従来のラクレットがもつ独特の強い香りを抑えつつ、芳醇な風味やコクを備えた味に仕上がります。

 その味わいを支えているのが、十勝川温泉エリアにある前述の共同熟成庫です。各工房で作られたグリーンチーズ(熟成前のチーズ)を専門の「熟成士」が徹底管理し、ベストなタイミングで消費者の皆様へお出ししています。

――共同熟成庫に集まる工房のチーズは、それぞれ当然個性があり、熟成の温度や期間にも差が出てくると思うのですが、どのように管理されているのでしょうか。

(三浦さん)レシピは共通ですが、工房ごとにチーズの原料乳(牛の種類やエサなどにより風味が異なる)やアプローチが異なるので、おっしゃる通り、味わいも香りも個性豊かです。現在、共同熟成庫には3つの部屋がありますが、チーズごとに部屋内の環境の好みがあり、それについては、主に設立当初のスタッフが試行錯誤を重ねた結果をもとに熟成カルテが作られ、それをベースに動かしています。

――設立当初に比べて、作業効率が上がっているという実感はありますか。

(三浦さん)共同熟成庫ができた当初は、2名の職員がつきっきりで朝から夜まで作業をしている状態でしたが、現在は熟成士3名で午前中には作業が終わるようになりました。

 共同熟成庫は、最大で5000個のチーズを同時熟成できるキャパシティがありますが、これだけの量でもいかに手間をかけずに、愛情を注げるか。この数年でデータが蓄積されて、技術も格段に向上してきたように思います。

――組合名に「品質」という言葉が含まれていますが、改めて品質へのこだわりについて教えてください。

(三浦さん)初期の頃からチーズの品質に関する社内検査をしていましたが、今ではその検査を外注して、より客観的な視点から、品質を公平に判断をしてもらえるように体制を整えました。

 最初の頃は、熟成がうまくいかなかったチーズを出荷元の工房に買い戻して頂いたり、どうにもならないものは処分することもありました。きれいに仕上がらなかったものを、十勝を代表するチーズとして売るわけにもいきませんから。

 工房側と何度も話して、レシピを変えるなどしてお互いに歩み寄り、今ではかなりロスも少なくなりました。きれいなものが多くできると、熟成士たちの働くモチベーションも上がって、良い相乗効果が生まれています。

――品質への裏付けと販路開拓に向けた動きとして、認証制度も活用されていますね。

(三浦さん)2019年に地理的表示(GI)保護制度の登録認可を受けました。これは簡単にいえば、「その地域ならではの特性を持つ産品の名称のこと」で「ここにしかない」ということを証明し、保護してくれる制度のことです。今後、海外への販路拡大においても、この認可を受けたことで優位に働いてくれることを期待しています。

 その他、北海道が定める「北のハイグレード食品」十勝ラクレットモールウォッシュ(2019年)とオリーブの涙(プレーン/2023年)が選定されています。これは百貨店催事などでは非常に注目されますし、道外での販路拡大に一役買ってくれていますね。

十勝ラクレットモールウォッシュ

オリーブの涙(プレーン)


ラクレットチーズの販路拡大に向けて


――現在は、催事への出店や飲食店への卸しなど、販売活動も精力的にされている印象です。ラクレットチーズの販路拡大という点で、これまでのご経験から感じたことを教えてください。

(三浦さん)現在は、レストランやホテルなど”調理する人”を経由してお客様に届くよう、主に業務用として卸すことがほとんどになっています。

 他のチーズに比べて、ラクレットチーズ自体が私たちの生活にまだあまり浸透していないことや、その価格帯なども相まって一般的な消費者が利用する量販店やスーパーマーケットなどの小売店に卸すのは、そう簡単ではありません。

 百貨店での催事には積極的に顔を出しているので、そういった場所ではありがたいことに固定のお客様がついていますね。それに、各工房の持つラクレット以外のオリジナル商品も一緒に販売することで、各工房の販路開拓の機能も一部担うようになってきました。

 ラクレットチーズというと「溶かして食べる」といったイメージが先行しがちですが、私たちの作っているものは生で食べても十分美味しいので、調理法や食べ方の提案もしながら、焦ることなくじっくりと顧客を増やしていきたいと考えています。その先に、各工房への固定客獲得も見据えています。

――今後、新たに取り組みたいと思っていることはありますか。

(三浦さん)新商品として、フランスの中南部オーブラック地方の郷土料理「アリゴ」に使用できるチーズを出したいと考えています。マッシュしたジャガイモに、チーズや牛乳、バターに塩コショウなどを混ぜ合わせて作る料理です。日本語で「伸びる芋団子」といったら、分かりやすいかもしれませんね。すごくよく伸びるんです。

 「十勝といえばラクレットチーズ」というイメージをもってもらえるよう、プロモーション活動も精力的に行っていますが「十勝に来たらアリゴも食べられる」というふうになったらいいなと思っていますので、十勝の飲食店にもご協力を頂きながら試作を行っているところです。

――2025年には設立10周年を迎えた十勝品質事業協同組合ですが、組合に所属する各工房の方々の意識も変化していったのではないでしょうか。

(三浦さん)先日、4年ぶりに各工房の製造者を集めた会議をすることができたんです。組合では、製造管理を任せられる専門の技術者が数年前に退職してしまい、この数年は基礎的な仕事をするに留まる状態が続いていました。そんな中、もともと他のチーズ工房に勤めていた方が、当組合に入ってくれたことで、頼もしい仲間を得ました。私は「グーグル先生」と呼んでいるくらい。チーズのことなら、何でも答えてくれます。

 それぞれの工房にいる新入社員や若手の作り手たちが、自社では今さら聞くのもはばかられるようなこと、遠慮してできなかったことなどもその職員に相談できる環境が整ったことはとても良いことだと思います。実際に、味が劇的に変化した工房もあります。人が変われば、チーズもこんなに変わるんだと実感しました。

“競争”から“共創”へ。より多くの人に製品を届けるために


――今さらですが、三浦さんはどうしてそんなにチーズ愛が強いのでしょうか。

(三浦さん)何でも楽しいから!ここでの仕事が面白くて面白くて仕方ないんです。私のようなチーズの製造や熟成に関しては素人の人間でも、チャレンジしたことが次々と正解になっていくわけですから。

 熟成士と相談した末に出てきた突拍子のないアイデアを実践して、それが成功に繋がっていくので、当然自信もついてきますよね。セオリーにとらわれず、自由にやらせてもらえていること。それが楽しさに繋がっているのでしょうね。

――十勝に限らず、「これからこういう人と関わっていきたい」という方はいらっしゃいますか。

(三浦さん)それはもちろん「調理をしている人」ですね。特に「人に言われて作ったものを出している人」ではなくて「自信をもって自分の料理を作る人」というのでしょうか。その料理が美味しいことはもちろんですが、調理に対して信念をもっている人、自信をもって私たちのチーズを提供してくれる人と関わっていきたいですね。それが、私たちスタッフのモチベーションにもなっていくと思います。

――ありがとうございました。最後に十勝の皆さんへメッセージをお願いします。

(三浦さん)私たちは、組合という組織形態で地域内のチーズ工房のまとめ役になり、皆でひとつの「十勝のチーズ」を作り上げました。このように、同じ製品を取り扱う事業者がまとまり「十勝の◯◯」を作り上げる動きがもっと活発になればいいと思っています。

 「十勝」という名前自体にバリューがあるわけですから、個人のブランドで勝負するよりも、お客様の目には付きやすくなりますよね。もちろん、お互いがライバル同士であり、競争してこそ良いものを作ることができるのですが、並行して「ブランドを一緒に作り上げる」ということで新たな可能性も生まれるはずです。

(編集後記)
 設立当初は共同熟成(生産)することが主でしたが、各工房との繋がりを深めることで、今では販売機能も活発になっている印象を受けました。十勝という「面」で新たな販路を開拓し、その先に参画工房の「個」が結びついていく。こうした”競争”ではない”共創”が、より十勝を国内外に広げていくものと信じて引き続き応援していきます。
(帯広市相部)


LINK

十勝品質事業協同組合(十勝プライド)ホームページ


協力

帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会


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