十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
今回は、大樹町でサクラマスの養殖事業化に取り組む髙橋良典さんにお話を伺いました。これまでに数々の困難に直面しながらも、そのたびに対策を講じながら挑戦を続けてきた髙橋さん。いくつもの壁を乗り越えてきたこれまでの成果と、事業化実現への思いについて深掘りします。(聞き手:LAND高橋、帯広市経済部相部)
大樹サクラマス養殖事業化研究会 髙橋良典さん
プロフィール
髙橋良典さん(たかはし よしのり) 会長
北海道指導漁業士に認定された、大樹の若手漁業者の中心的存在。主要魚種のサケの不漁により浜に元気がなくなっている中、旭浜漁港の低水温性の特徴を活かした養殖漁業に活路を見出そうとサクラマス養殖に立ち上がる。生花苗沼(オイカマナイトー)シジミ保存会会長として、全国青年・女性漁業者交流大会で大型ヤマトシジミの保護活動を発表し、水産庁長官賞を受賞。
「魚が獲れない」…サクラマスの養殖産業に活路を見出す
――まずは、大樹町の漁業の概要と現状を教えてください。
(髙橋さん)大樹町には、旭地区と浜大樹地区に漁港があり、年間を通してサケ、マス、シシャモ、ホッキ、ツブ、毛ガニなどが水揚げされています。しかし、近年は、本当に魚が獲れなくなってきています。特に秋サケが大樹の主要魚種ですが、漁獲量が年々減少して、過去最低を更新し続けています。地元の漁業者にとっては大変な痛手です。
――そんな中、大樹サクラマス養殖事業化研究会を立ち上げた背景について教えてください。
(髙橋さん)当時の大樹漁協専務から「大樹町で養殖をやらないか」という話があり「僕にやらせてください」と申し出たのがきっかけです。先ほどお伝えしたように漁業従事者の収入は、その年の漁獲量に左右されるので、安定しているとは言えません。年ごとの収入の差を養殖事業によってカバーできるのではという思いもあり、メンバーを集めて令和2年度に設立しました。
――研究会の会員には、どんな方がいますか。
(髙橋さん)現在、メンバーは10名ほどで、漁業者以外にも大樹漁業協同組合の職員や、大樹町役場の担当者などが協力してくださっています。それぞれ仕事を持っているので、お互いに補い合いながら、飼育を行っています。また、水産試験場や普及指導所の方々も我々の活動に親身に協力してくださっています。
2022年、稚魚放流の様子(instagramより)
――大樹町での養殖事業にサクラマスを選んだ理由は何でしょうか。
(髙橋さん)まず、サクラマスは北海道にもともといた日本固有の魚であることがあげられます。その上でサケ・マス類の海面養殖は、全国のいくつかの地域で既に行われていますが、水温が20度を超えると死んでしまう魚が出てくるため、冬飼育・春出荷が一般的です。
しかし、大樹町の漁港の水温は、夏でも20度を超える日は年に数回で、夏飼育・冬出荷ができるのではないかと考えました。通常は春が旬のサクラマスを冬に出荷することで、年末年始の需要が見込まれる時期に冷凍ではなく生魚という新鮮な状態で出荷できることに商機を見出しました。
こういった時期をずらしての事例は、全国でもあまり聞いたことがなく、成功すればかなりの優位性が見込まれ、注目も集まるのではと考えています。
困難の連続。それでも諦めずに続けた6年のあゆみ
――養殖サクラマスの12月出荷は前人未到なんですね。ここからは、令和2(2020)年度から始まった皆さんの取り組みについて、年度ごとの成果や課題について順にお伺いしたいと思います。
(髙橋さん)令和2年度は旭浜の漁港の中に5メートル角のいけすを設置して、5月半ばに約360尾の稚魚を放流し、試験飼育を開始しました。この年は、9月26日の「しけ」によって、ほとんどの魚がへい死してしまったのですが、越夏飼育が可能であることを実証できました。
大樹町旭浜漁港内に設置されたいけす(instagramより)
令和3(2021)年度は、いけすを3基増設してしけ対策を講じた上で、稚魚の数も2,300尾へと増やして飼育を開始しました。しけ対策も奏功して順調に生育していたのですが、9月末に発生した赤潮(プランクトンの異常発生により海水が変色する現象)によって、またしても大量にへい死してしまう結果となりました。
令和4(2022)年度には、過去2年越えられなかった「9月の壁」を乗り越えて、今年度こそ出荷できるという矢先、11月末のしけによってまたほとんどの魚がへい死してしまいました。さらなるしけ対策が急務だという結論に達しました。
令和5(2023)年度は、10メートル角の大型のいけすを導入しました。しかし、この年は7月から9月までの高水温によって生育が悪く、多くが成熟してしまいました。
――成熟が進むと、商品にはならなくなってしまうのでしょうか?
(髙橋さん)20度が生死の境目といわれるなか、この年はそれを超える日が長く続いてしまいました。私たちもその間は、なるべく体力を使わせないように給餌のペースを落としたりと対策しましたが、魚の本能的なところもあって、魚体が大きくならないまま成熟に向かってしまいました。
生育状況確認の様子(instagramより)
魚体が成熟すると、脂のノリも全く違いますし、味も落ちてしまいます。栄養も魚卵のほうにいってしまうのですが、産卵する間近の状態にまでなってしまったため、魚卵もバラ子の状態で、筋子としても価値がありませんでした。
ただ、この年は最終的に87尾が水揚げされ、成分分析や市場調査、バラ子を使用した加工品開発をすることができたので、それは一つの成果だったと思っています。
――トライアンドエラーの連続ですが、令和6(2024)年度の成果はいかがでしたか。
(髙橋さん)令和6年度は、さらに成熟への対策も講じなければならなくなりました。
専門機関とも相談をしながら対策を進めていたところ、光を当てる=人工光を用いて擬似的に日照時間を増やすことによって、成熟を抑制させることができるという研究結果があることを知りました。
そこで、令和6年度はライトを導入して、光を当てて生育したものと、そのままの状態で生育したものとを比較してみたのですが、やはり光を当てた魚の方が成熟が遅くなることが確認できました。
夏には、いち早く大きくなった個体を市場調査に出してみたのですが、味に関しての反応は良かったと思います。ただ、魚体が1.5キログラムほどにしかならなかったので、それでは歩留まりが悪く、将来的に出荷をするにはより大きく成長をさせなければならないということでした。
――これまで、さまざまな困難を乗り越えてこられたと思いますが、そこから見えてきたことはありますか。
左:大樹漁業協同組合 今井さん、中:髙橋さん、右:LAND高橋
(髙橋さん)正直なところ、最初は養殖がそんなに難しいものだとは考えていなかったんです。それが全く間違いだったことがこの数年の実証ではっきりと分かりました。他の地域では、養殖に挑戦したその年に出荷できたという情報も耳に入ってくるので、歯がゆい思いもあります。
しけに見られるような大樹町の生育条件や環境の難しさも感じているところではありますが、この取り組みに対して協力してくださる方がとてもたくさんいらっしゃって、本当にありがたく思っています。応援してくださる方のためにも、何とか成功させたいというのが一番ですね。
――具体的には、どのようなサポートがこれまでにありましたか。
(髙橋さん)水産試験場や普及指導所がとても親身に協力してくださっています。水温データや赤潮の原因になるプランクトン発生を確認できる機械の解析指導や、成熟を抑制するライト設置による生育分析などを実施し、データを提供してくれています。研究データを共有してくれるのは非常に心強いです。
養殖事業化が大樹における漁業の未来を変える
――ここからは、大樹サクラマス養殖事業化研究会の今後についてお伺いします。まずは直近で解決したい課題は何でしょうか。
(髙橋さん)やはり、一番はしけ対策です。どれだけうまくいっていても、たった一度のしけが全てをだめにしてしまうので、その影響は計り知れません。しけによって、魚体と網がこすれることが魚へのダメージになるため、いけすの大型化については常に考えているところです。
ただ、大型化には単純な設備コストの問題や、今まで人力でできていたことが機械を使わなければならなくなるなどのデメリットもあるので、慎重に検討していきたいです。
――令和7(2025)年は、どのようなことに取り組む予定ですか。
(髙橋さん)まずは、前年(令和6年)と同様に光を照射しての飼育がメインになります。今年は新たにより専門的なライトを購入して、成果を出したいと思っています。それから、前年は途中で中止してしまった大型のいけすを最後まで使用して、しけに対してどれだけ効力があるのかを試す予定です。それらを踏まえ、12月の出荷(市場調査)まで結びつけられればいいですね。
やはり、生で食べられるところが天然物にはない養殖の強みなので、その点にはこだわり続けて、年末年始のみなさんの食卓に生食できるサクラマスが並ぶことを目指したいですね。
――ありがとうございました。最後に、中長期的なビジョンについてもお聞かせください。
(髙橋さん)現在は研究の段階ですが、今後は事業として成り立つように成功をするまで見守っていきたいです。サクラマスが成功すれば、他の魚でも養殖にトライしていけるのではないかと思います。
冒頭で述べたように、漁業者は以前苦しい状況が続いています。天然物だけに頼らずに、養殖が大樹町の漁業の特色の一つになればいいと願っています。
編集後記
環境や漁業資源の変化をふまえながら、人口減少下の地域の未来を思い、次世代に何をつないでいくかを考えた取り組みであることに、大きな価値を感じます。漁業に限らず、十勝における他産業においても同様に、どのように未来を見すえ、何を残して何を繋いでいくかを考えねばならないと思いました。
あと一歩のところでこれまでの取り組み・努力が全て潰えてしまう経験を繰り返しながらも続けるというのは、本当に大変なことです。僕らも力になれることはないか、これからも考え応援したいと思います。記事を読まれた皆さんも、ご協力・ご提案などがございましたら、LANDまでお気軽にお問い合わせください。
LINK
大樹サクラマス養殖事業化研究会
協力
帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会
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