北海道帯広市の事業創発拠点「LAND」

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種を育てる研究所(タネラボ)

日向 優さん

#4「薬用植物を活用した商品の開発・発信により地域の活性化を目指す」

十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!

今回は、十勝・陸別町で、地域の素材を活用して「健康」や「美容」をテーマとしたオリジナリティの高い商品を開発・発信することにより、地域に新たな価値を創出することを目指す、種を育てる研究所(タネラボ)の日向さんにお話を伺いました!

種を育てる研究所(タネラボ) 日向 優さん

プロフィール
日向 優さん(ひなた ゆう) 種を育てる研究所代表

札幌市生まれ。2006年に北海道大学薬学部を卒業し、薬剤師免許を取得。大学院在学中の2008年にマサチューセッツ工科大学(MIT)化学科に短期留学。2011年に北海道大学にて博士(生命科学)取得後、塩野義製薬株式会社に入社。2017年から陸別町地域おこし協力隊として町の新事業支援に携わり、2021年に種を育てる研究所を設立。

"薬用植物の栽培という「種」から始めて加工販売までを一貫して行う"

――種を育てる研究所では、薬用植物の栽培から始まり、希少な薬用植物と西洋ハーブ類との組み合わせによるブレンドティーや、トドマツ、アカエゾマツの精油を活用したアロマ関連グッズなどの製造・販売を行っています。「種を育てる研究所」の由来はどういったものなのでしょうか?

「『種を育てる研究所』と名付けた理由として、一つは薬用植物で六次産業化までを行うために、まさに薬用植物の『種』から栽培を始めて加工販売までを一貫して行いたいという思いからです。また、陸別町は酪農業と林業が盛んですが、畑作があまり盛んでないということもあり、新たな産業をゼロから生み出していきたいという産業の『種』といった意味合いも込めています。

種を育てる研究所 日向さん

――薬用植物とはどういったものなのでしょうか?

「そもそも薬用植物のはっきりとした定義はないんです。薬効が期待できるもの全てを薬用植物とする場合もありますが、それだと野草や山菜、一般の野菜も含むことになります。私の場合は、漢方(生薬)に使う植物を薬用植物と呼んでいます。現在栽培している薬用植物・ハーブ類は約20種類(キバナオウギ、トウキ、ベニバナ、マロウなど)で、それらのいくつかをピックアップしてブレンドティーとして商品化しています。例えばキバナオウギは根の部分を生薬として使いますが、私の場合は葉の部分をお茶にしており、大変珍しいです。」

焙煎オウギ葉茶「オウギ」

トドマツ&アカエゾマツ精油セット「りくべつのかおり」

「また、商品作りに当たっては、まずは作りたい商品から考え始め、それに必要な効能を持つ植物を栽培するところからスタートします。例えばハンドクリームであれば、保湿や抗菌効果のある成分を持つ薬用植物を調べて、陸別町の気候でも育つ可能性があればそれを育て始めるという流れです。地方発の商品の多くは、すでに昔からその地域に存在する素材があった上で、それを商品化にしていくと思うので、その点が他の商品作りと違うと考えています。」

"移住するのであれば、町の発展に向けて自分たちの仕事や活動が貢献できるというやりがいを見出したい"

――日向さんは、元々大阪で働かれていた時に、移住フェアで陸別町のことを知ったといいます。また、その際に陸別町の魅力を感じ、当時同じ職場だった奥様とともに陸別町への移住を決めたといいます。陸別町に決めたのはどのような理由からだったのでしょうか?

「陸別町以外の地域でも体験移住を行いましたが、いずれも町の産業がある程度成熟しており、自分たちが入り込む隙があまり無い印象を受けました。私たちは、せっかく移住するのであれば、町の発展に向けて自分たちの仕事や活動が貢献できるというやりがいを見出したいと考えていました。そういった意味で陸別町は大きな伸びしろを感じましたし、また町の規模が自分たちの感覚に合っていました。また、陸別が薬用植物の栽培に力を入れ始めたという点も、自分にとってピンときた点です。確かに冬はものすごく寒いですが(笑)、朝に外に出なければそこまで寒いとは感じませんし、雪も少ないでの雪かき作業もとても楽です。また、十勝は晴れのイメージがとても印象的で、広島出身の妻も十勝の青空や広大な畑、冬の景色に日々魅了されています。

エキナセアの収穫風景

陸別町は十勝の中にありながら、オホーツク地域とも近いという点もメリットですね。北見の大学や研究機関にもアクセスしやすく、薬用植物に関する研究を共同で行ったりもしています。単純に活動地域が倍になるというイメージで、オホーツク地域にもたくさんの知り合いができました。実際に北見のレストランと「やくぜんうどん」のメニュー化を行いましたし、海産物が豊富なオホーツク地域とコラボしてハーブを組み合わせた商品開発も実施してみたいです。」

――日向さんは薬学分野のご出身ですが、薬用植物の栽培に対して自身のご経験をどのように生かせるのでしょうか?

「大学時代は薬学の中でも、化学分野で研究を行なっていました。陸別町に来た当初は、家庭菜園もやったことがなかったですし、全くの素人からスタートして5年が経ちました。薬用植物は栽培法から利用法まで特殊な部分が多いため、一般の農業の知識以外にも薬事法や成分に関する知識も必要になってくるので、その点でこれまでの経験を生かせていると感じています。」

"将来的には化粧品の製造施設を作り、地元の中でお金が回る仕組みを作りたい"

――日向さんは、当財団の「R2年度十勝人チャレンジ支援事業」(現「とかちビジネスチャレンジ補助金」)で、三種類の薬膳スープの試作といった商品開発や、テストマーケティングを行なっていましたが、同事業での活動はどのようなプラスがあったのでしょうか?

「この事業に採択されていなければ起業していなかったというくらいに感謝しています(笑)協力隊の在籍時に応募したのですが、自分のアイデアが採択され、このアイデアを面白いと思ってもらえると分かったことは自信になりました。また、とかち財団の方に事業プランを相談していく中でプランをブラッシュアップさせていくこともできましたし、何より十勝地域のいろいろな方々と繋がることができたということが大きかったです。時には厳しい意見をいただくこともありましたが、そもそも私には起業経験もなかったですし、あの経験が現在の糧になっています。」

――北海道では薬用植物を漢方向け以外で商品化し、事業展開している例が極めて少なく、全国的にも非常に珍しいといいます。一方、漢方向けのトウキの栽培は帯広市の川西地区が全国でも有数の産地であり(なんと!)、冷涼で農薬を使わずとも病害虫を寄せ付けにくい北海道の気候は、薬用植物の栽培には非常に向いているそうです。今後はどういった事業展開をお考えなのでしょうか?

「元々は、薬用植物で化粧品の製造・販売を行うことを考えていました。現在も化粧品の製造施設を作りたいという思いは変わっていません。そうすれば自社商品の製造だけではなく、道内からOEM製造の受託もできるようになりますし、この地域で化粧品が作れるようになると、地元の中でお金が回る仕組みができます。道東地域に製造施設が非常に少ない理由としては、施設に必要な総括製造販売責任者になるための資格を持っている人が少ないからなんです。薬剤師免許はその資格要件を満たしているため、夫婦どちらも責任者になり得ることが強みだと考えています。もちろん、施設を作るだけではダメですので、現在は化粧品に関する知識や技術を習得すべく活動中です。」

日向さんの印象を一言で言うと「丁寧」。その丁寧な姿勢が商品作りに現れ、また地域やオホーツクの方々とのつながりを生んでいるのだなと感じました。 また、日向さんが移住先に選んだのは、日本で一番寒い町の陸別町!特に、移住を判断する基準として、すでに出来上がっている町ではなく、町の発展に自分たちの活動が貢献していけるということを重視したという視点は非常に印象的でした。
LANDとしても日向さんの活動を応援していきます!

LINK

種を育てる研究所

協力

帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会

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