十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
下水の処理過程で発生する下水汚泥が肥料に変身!? 価格高騰や供給の不安定化などに伴い、肥料や飼料の自給の取り組みが注目されています。下水汚泥を肥料に再生させる「十勝ビストロ下水道プロジェクト」について、土木、農業土木、上下水道、地域計画、環境調査、建築等のコンサルティング事業をおこなう北王コンサルタント㈱代表取締役の石川さんにお聞きしました!
北王コンサルタント株式会社 石川 健司さん
プロフィール
石川 健司さん(いしかわ けんじ) 北王コンサルタント(株)代表取締役1969年上士幌町生まれ。帯広柏葉高、関東学院大工学部卒。1993年、東証一部上場の日本上下水道設計(本社東京、現NJS)に入社、技術本部や札幌事務所を経験。「技術を生かし地元で貢献したい」と2004年、北王コンサルタントに入社。技術や財務系部署を経て2014年から専務。2020年に代表取締役に就任。
――下水汚泥が肥料として利用できるとは知りませんでした。「十勝ビストロ下水道プロジェクト」って何ですか?
「下水汚泥には、肥料に欠かせない『リン』や『窒素』が含有されています。本プロジェクトは、下水道が有している農業・食等に関するポテンシャルを活用し、十勝の地域活性化を目指すプロジェクトです」
「国土交通省では、下水道資源を農業等の生産性向上に貢献する取組を『ビストロ下水道』と称し、下水道資源を活用した食材を『じゅんかん育ち』として、理解促進に取り組んでいます。最近では、下水汚泥の肥料への利用拡大に向けた農林水産省と国土交通省の官民検討会も立ち上がっています」
国土交通省 資料(2022.10)より抜粋
――これまでどんな取り組みをしてきたのか教えてください。
「これまで、関係機関とともに勉強会の開催や実証実験の実施、安全性の確認、関連自治体や事業者との調整や認知拡大のための取り組みをおこなってきました。当社の他、十勝川浄化センターの管理をおこなっている㈱日水コン、北王農林㈱などが主なプロジェクトメンバーです」
プロジェクトメンバーの皆さん
――土木、上下水道、地域計画等のコンサルティング事業をおこなっている北王コンサルタントが、なぜこのプロジェクトを立ち上げたんですか?
「もともと事業で下水道に関わる中で、その秘めた可能性に着目をしていました。帯広市内の『北の屋台』の下水管から『熱を取って暖房にできないか?』など、食や農業にからめて地域活性化につなげたい、という想いを持っていました」
「下水道というシステムはとても高度なシステムで、そこからエネルギーを取り出す仕組みは既にあります。ただ、その利用価値はまだよく知られていない。脱炭素の取り組みや、ロシア・ウクライナ情勢による肥料など調達環境の変化など、時代が変化するとともに、下水道の価値が高まるのではと感じています」
――現在、日本では約1,000ヵ所の下水処理場で肥料利用に取り組んでいるそうですね。全国的には下水汚泥を建設資材やセメント原料へ利用されるケースが多く、肥料としての利用は1割程度だそうですが、十勝ではたい肥化や肥料原料化され、活用されているようです。中国やロシアからの輸入が滞り、肥料原料の価格は高騰してる中で、国産自給肥料が注目を浴びています。
「そうですね。最近はとても注目されています。十勝では下水汚泥の9割以上が堆肥化や肥料原料として緑農地利用されています。ただ、今は、肥料として使いたい人が使いたい量をすぐに使える状態ではないんです。法規制などもあり、調整が必要な事項も多いです。プロジェクトでも2年間、勉強会や関係機関との連携をおこない、ようやく2021年に下水汚泥肥料の原料となる乾燥汚泥100トンの受け入れが実現しました」
「北海道内では岩見沢市が取り組みの先進地で、下水汚泥肥料で育てた野菜が、ふるさと納税の返礼品になっています。全国に目を向けると、神戸市や佐賀県は肥料の販売もおこなっています」
プロジェクトの視察の様子
――下水汚泥肥料の活用、十勝でももっと広がっていいのではと思いますが、あまり目にしないのはどうしてなんでしょう? 何が課題なんでしょうか?
「下水汚泥肥料は、十勝で既に良好に利用されています。ただ、下水汚泥を利用した作物について、農業者さんがあえてPRをする理由がないため、目にしたり耳にすることがないのだと思います。また、消費者の方にも、下水汚泥の利活用についてご理解いただいていない状況もあります」
「そこが課題で、利用者、消費者、双方の理解促進がまず一つ。そして、もう一つは、下水汚泥肥料を利用する農業者さんが、肥料を使うことのメリットを感じて、それをPRすることで商売上プラスになる何かが必要だと感じています。その何かは、品質の向上であったり、ブランディングであったり、なんらかの付加価値につながることです。今は勉強会の中でも、地域性やストーリー性、テロワールなど、付加価値向上につながる取り組みの模索をおこなっています」
――プロジェクトの未来について、お聞かせください。
「プロジェクトでは、肥料の調達から生産、流通、販売まで、非常に広範囲にわたるテーマについて話しています。DXやSDGsの取り組みなども関わってきますが、全てはどう認知させていくかが重要だと考えています。調達や生産の道筋はできていましたが、流通販売については他者との連携も視野に、サプライチェーン全体で考えていきたいです」
「循環型社会の観点からも、農業生産地の十勝で、下水汚泥の利用を促進し、使いたい人が使えるようにするために、関係各所との連携をおこなっていきたいと考えています。そこから、消費者に理解して使ってもらうところまで、つなげていきたいですね」
石川さんのプロジェクトは、肥料の域内自給率を上げる取り組みであるだけでなく、十勝農業の持続性を高める取り組みであると感じました。地域資源の有効活用、これから益々ひろがっていくことを期待しています!石川さん、これからも応援しています!
帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会
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