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株式会社とかち製菓

駒野 裕之さん

#44「『和スイーツ』で国内外市場を切り開くとかち製菓は、地域発・食品製造業のモデルケース!」

十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!

十勝・中札内村から和スイーツの新たな地平を切り開いている「株式会社とかち製菓」代表の駒野裕之さん。国内外での挑戦を重ね、マレーシアでハラル認証※の和菓子を展開するなど、その事業は農林水産大臣賞を受賞するほどの評価を得ています。「地域発・食品製造業のモデルケース」としての彼らの歩みと、目指す未来に迫ります!(聞き手:LAND 高橋)

(※ハラル認証:商品・サービスがイスラム法に則って生産・提供されたものであることをハラル認証機関が監査し、一定の基準を満たしていると認めること)


株式会社とかち製菓 駒野 裕之さん

プロフィール
駒野 裕之さん(こまの ひろゆき) 代表取締役

1972年十勝・幕別町生まれ。1995年株式会社十勝大福本舗に入社。2012年、中札内村に株式会社とかち製菓を設立、代表取締役就任。十勝産の小豆を使用した餡や白玉を組み合わせた「和スイーツ」を中心に製造販売をおこなう。

独立のスタートは同業種からのスピンアウト

――今回、お話をお伺いしたいポイントの1つは、海外展開についてです。そしてもう1つは、地域発の食品製造業のモデルケースの1つがとかち製菓さんなのではないかと思っておりまして、まずはその点について詳しくお伺いしたいと思っています。まずは、2012年に創業されてから、現在までの軌跡をお伺いします。

(駒野さん)創業前は、兄が代表を務める「株式会社十勝大福本舗」に勤めていました。独立をして創業すると考えたのは、2011年頃、取引先だったコンビニエンスストア数社との取引を辞めなくてはならないということがありました。私は、大手のコンビニエンスストアだったし、取引を辞めるのは非常にもったいないと思っていました。

また、先代の父が代表を勤めていた時に中札内に工場を新設しました。しかし、なかなか稼働が上がらず苦労をしていました。 そこで、中札内の工場を買い取り、大手コンビニエンスストア向けのに供給する会社を作りたい考えるようになり、兄にも許可をもらい2012年にスタートをさせました。

──独立時の資金はどのように調達しましたか?

(駒野さん)工場の取得費、設備機器や運転資金など、会社をスタートさせるのに7億円必要でした。基本的に融資とリースで調達しましたが、簡単な調達ではありませんでした。十勝大福時代の実績があるとはいえ、新たにスタートする会社で、7億もの融資をお願いするわけですからね。事業計画では、初年度の売り上げ目標6億にしていたんですが、これまた信じられるわけないですよね。事業開始直前まで借り入れの計画が立たないなど、ヒリヒリする出来事もありましたが、最終的には何とかなりました。

──現在は「白玉クリーム」のような「和スイーツ」が中心ですが、最初のスタートとしては「純」和菓子だったんですよね。

(駒野さん)そうですね。ちょうどその時期、コンビニのスイーツがレベルアップしていっている時期で、洋菓子の次に和洋折衷のデザートが欲しいという流れになっていました。そこで我々は、サークルKさんに、餅を使った商品や小豆とクリームを使った商品などを一生懸命開発して売り込んでいき、サークルKさんの系統とミニストップさんで売り上げの95%ほどを占める結果となりました。そのように、商品開発から生産して、全国供給というモデルで会社を軌道に乗せることができたんですね。

──とかち製菓さんの強みの1つは、冷凍流通を前提とした、解凍してもおいしい商品を作れることだと思うのですが、駒野さんは自社の強みをどう捉えていますか?

(駒野さん)やはり、9割くらいはそこだと思っています。できたてのような食感を冷凍で1年、解凍後でも5日保つというのは強みです。あとは、基本的に私たちの会社では、NB(ナショナルブランド)というよりはOEMやPB(プライベートブランド)を作っていて、道の駅の大福なども企画製造しています。そういった面白みのある、ここにしかない商品というのを一緒に作ることが好きなので、そこに向けての取り組みを売り上げの規模にかかわらずやっているところも特徴だと思っています。

年間売り上げが半減!?「地獄の2年間」

──商品力を元に、十勝の小豆などを使った和スイーツをコンビニに供給していくモデルは、初年度からうまくいっていたんでしょうか?

(駒野さん)はい。最初は絶好調のスタートだったんですが、時間がたてばたつほど、全体の売上に対するコンビニ比率の高さが恐怖になってくるんですね。サークルKさんとミニストップさん以外の売り上げは10%にも達しないわけですから。そこで、その後はその比率をどうにか下げることを課題としてやっていきました。

──とかち製菓設立の2012年から2017年は、コンビニ業界の合従連衡が大きく進んだ時期ですね。

(駒野さん)はい。まさに、2016年にサークルKさんがファミリーマートさんに吸収される、ということがあったんです。その時に地獄を見たんですよ。先ほど言ったように、サークルKさんとミニストップさんで売り上げの95%だったのを、バランスを取るべく努力していましたが、サークルKさんがファミリーマートさんに吸収されるという記事が出た時点で、サークルKさんだけの売り上げが65%を占めていました。つまりは間に合わなかったんです。

私どもの商品は冷やして食べるものが多いので、夏によく売れるのですが、その大事な夏の時期は、生産キャパが足りないため、他のところへの営業ができなくなってしまう。それを繰り返していると新規のお客さんができないわけです。その結果、サークルKさんが吸収された後、2017年から2年連続で売り上げは約5割減。地獄を見ましたね。

──5割減・・・、資金繰りや体制面でも相当大変ですね。

(駒野さん)サークルKさんの案件がなくなったので、工場が暇になってしまったんですね。それで、なんかやらなくちゃいけないと思って始めたのが、ハラル認証を受けた大福づくりだったんです。

ピンチはチャンス。海外展開と顧客分散。

──ハラル認証やマレーシアでの展開は、帯広商工会議所さんの事業やJICAさんの「草の根技術協力事業」などを活用したがきっかけだったんでしょうか。

(駒野さん)帯広商工会議所さんやJICAさんとの取り組みは、大変だった2年間よりもさらに2年ほど前から取り組んでいたんですよ。すでに取り組んでいたことだったので、そこで感じていたハラルフード開発のチャンスが、工場が暇になったことで、「あ、これ今やれるかもしれない」と繋がっていったんですね。

マレーシアのイオン・コタバル店での商品展開の様子(2016年)

──なるほど、困難な状況になる前から取り組んでいたことが、いざという時に活きたんですね。

(駒野さん)はい。今はどうなっているのかというと、困難な状況から引き上げていただいたのがローソンさんなんですね。2019年にローソンさんが新しい和菓子を探しているという話があり、たまたまうちで商品開発したものが採用されたんです。その商品だけで、当社全体売り上げの4割に届きました。一気に元の売り上げに戻ったわけです。ただ、結局売り上げに占めているコンビニさん比率は高いままだったので、売上全体の中での比率を調整する努力は続けていまして、今はコンビニさん比率は2割程度になりました。

──今後の売上構成や目標について教えてください。

(駒野さん)全体の2割を占めるコンビニ率は、ローソンさんの年もあれば、ファミリーマートさんの年もあって、2年前にはコンビニではなくスターバックスさんだったり、年やタイミングで代わりつつもうまく取れていて、それはありがたい部分ですね。ただ、非常に不安定な売上でもあります。毎年厳しいコンペがあり、新規開発製品が認められないとゼロになります。この2割を安定の売り上げに持っていきたいと思っているんですが、なかなか難しいのが現状です。

現在は、10億弱の売り上げで、輸出は1億円ほどです。当社工場の生産規模は、約12億と想定しています。現在の売上の2割を、安定して継続できるお客さんと契約して、その上で2億円ほどの売り上げをコンビニさんなどの大手と取り引きできれば、すべて合わせて12億円となり、10億円でもそこそこの収益、という状態に持っていけると考えています。今は、3年のうちに売り上げ12億円到達というのを目標として掲げています。地獄を見た2年間がありましたが、その間に営業に動けていたことで、今に繋がっていると思っています。

営業はなんと2人だけ?人材に対する考え方

──社内体制として、製造・営業・総務など、いくつか部門があると思うのですが、どういう割合でやっていらっしゃるのでしょうか

(駒野さん)当社では製造がほとんどですね。社員17人のうち、営業は担当1人と私の2人でやっています。

──え、2人だけなんですか!?

(駒野さん)そうなんです。総務は工場長が兼務しています(笑)。経理・財務は、生産管理の担当と、私がやっています。ということで、いわゆる管理部門については全然従業員がいないですね。やっぱり生産の方に注力して、そこを大きくしていくのがメインですね。管理部門はそんなに大きくしてもあまりいいことがないかなと思っているので。

──想像していた割合と全然違って驚きました。もっと多くの営業さんがいらっしゃるのかと。

(駒野さん)いないんですよね(笑)。さらに言うと、商品開発担当は現在1人ですね。

──このような少人数所帯というのはとかち製菓さん規模の製造業では一般的なんでしょうか。

(駒野さん)いや、もっと大きいと思います。私たちの会社では、例えば、給与計算のシステムは、指紋認証で全部管理されていて、年末調整なども含めてすべて外注しているので、それに割く人員が必要なくなります。だからやはり、いかに管理面をシステム化して、人手をかけずにやるかということは重要ですよね。管理に人を割くくらいだったら、現場や開発に人を入れた方がいい、そういう風に考えています。

とかち製菓 本社工場外観

──言ってしまえば、営業についても、営業がいなくても売れる仕組みを作るのが理想というか。

(駒野さん)そうですね。それでももう1人いないと12億までは行かないですけどね。営業をアウトソーシングする「営業代行」的なサービスもあるじゃないですか。今、銀行さんに紹介された営業代行と契約しているのですが、これが結構面白いです。担当の方が商談先を探してきて、3ヶ月間で商談した数が15社ぐらいありました。そのうち3社と繋がり、開発が始まっています。全部オンラインで商談するので、私がマレーシアに出張中でも商談できるんですね。今回のことで、そういうやり方でもうまくできるんだな、ということは思いましたね。でも、そういった外注が絶対できないのは工場の現場なんです。だからこそ、そこに人を割いてるわけです。

──人材不足に対する考え方に関して、もう1点お聞きしたいんですが、製造に関する部分の省力化・機械化というのは、ある程度進んだ印象でしょうか。

(駒野さん)それがですね、機械でやると遅くなるんです。食品の生産って、人の方が速い。我々は今、基本的に1直(1日を3分割した場合の昼勤務)のみの体制で生産しているので、8時間勤務なんですが、2直(夜)、3直(深夜)勤務は募集してもなかなか人が集まらないと思います。2直あるいは3直の全てを機械化できるのであれば、機械導入検討もできると思いますが、ちょっと機械化しただけでは、例えば0.5人分くらいしか労力は減らないわけです。中途半端に0.5人分の労力だけ減ったからと言って、そこには残りの0.5人分の人手が必要になるわけで(笑)。結局、人手で考えると負担が減らない、というようなことが起こるんです。

──なるほど。人手か、全体のオートメーション化か、という選択になるわけですね。

売上・取引の規模拡大にたちはだかる「壁」を乗り越えるには?

──次に、海外展開についてお聞きします。2015年には、マレーシアに現地法人を設立し、マレーシアのパートナー企業に大福の製造を委託し、マレーシアで販売していますね。それ以外は、十勝で製造した製品を海外に輸出しているそうですが、どこの国に輸出実績があって、現在はどの国への輸出が多いのでしょうか?

(駒野さん)輸出売上1億円のうち、今は香港が7,000万円ほどで、アメリカがまだ1,000万円に届かない、という状態ですね。その他、タイ、ベトナム、インドネシア、中国、台湾などの国は継続的なかたちではなく、単発が多いです。

先ほど、2割の安定した売り上げを作りたいという話をしましたが、韓国のコンビニ市場がその2割にならないかなと期待しています。ただ、2023年12月に初輸出をしたので、2024年1月に韓国を訪れたんですが、正直これは簡単じゃないな、と思いながら帰ってきました。採用されれば、発注は大量にもらえる可能性が高いのですが、価格は低い。また、デザート売り場が大きくないので競争が激しい。そういったことを実感しましたね。そういうのはやはり行ってみないとわからないですね。そんな簡単じゃないということを知れてよかったと、むしろポジティブに捉えています。

──十勝から海外展開したいと考える際に、考えるべきポイントはありますか?

(駒野さん)うちの会社の商品はBtoCではないので、それについては詳しくは言えないのですが、私の視点で見ると、自分たちの工場の製造規模的に1顧客につき年間1,000万から2,000万円ほどの売り上げ規模が一番効率がいいんです。そうすると、お客さんの規模もそれなりに大きくなってしまうんですね。そして規模の大きいお客さんと取引するためには、それなりの量が作れないといけないわけです。

十勝でも輸出に取り組んでいきたい企業は結構いると思うのですが、求められる数量と、自社工場の現状のキャパシティがマッチせず取引が進まないというケースが多いと思います。輸出だけじゃなく、首都圏に販売するにしても「この量しかできない」「この時期にはできない」となると、話が進まないですよね。だから、ある程度の量を作れるようにして「数を出す」という思いを前面に出していかないと、せっかく良いものは沢山あるのに発信できず、お届けできずに終わってしまうのではないかと思います。

──製造数量、取引数量を増やすためには、設備や人材への投資が必要ですね。その決断をするために、言わば「壁」を乗り越えるためには、何が必要だとお考えですか?

(駒野さん)私自身の話をすると、2012年に会社を起こして、マレーシアに行き出したのは2年後、2014年の6月なんですよ。これはなぜかと言うと、コンビニに依存した売り上げ比率を変えなくちゃいけないっていう思いから行ってたんですね。言ってしまえば、このまま続けていたらうちの会社は潰れると思っていたから動いていたんです。そういう思いにならないと、人って動かないんですよ。今が幸せなら、わざわざ海外に市場を探しに行くなんてことないわけです。一歩踏み出すためには、その時置かれている状況や将来に前向きな危機感を持つことしかないのではと思います。

──なるほど…。危機感があったから海外へ足を運ぶという形で動いていらっしゃったし、いまもそのための投資をしていらっしゃるということなんですね。

地域発食品メーカーとして、新たなモデルづくりを目指して

──とかち製菓さんは地域発の菓子メーカーとして、海外を含むBtoBを中心とした大きな販路を切り開いている、希少な存在だと感じています。最後に将来構想をお聞かせください。

(駒野さん)当初は、日本の人口や経済が縮小していってしまうので、どう考えても外に目を向けなくちゃいけない、国内はもうダメだと思っていたんですが、とはいってもやはり、日本を潰すわけにはいかないわけです。なので、1つは、インバウンド向けの商品開発と発信です。十勝にこんなデザートがあるぞ、という情報発信をしてインバウンド観光客を呼び込み、実際に十勝に来られた観光客にデザートを食べてもらい、ゆくゆくはそれを輸出につなげていきたいです。小売り面でのチャレンジをしながら、十勝のインバウンドを増やすという、そういった役目を果たすことはできないかということを考えています。

──なるほど。十勝全体のインバウンドを増やそうと動いていると。

(駒野さん)2つ目は、地元でも愛される商品づくりです。今は人づてに、十勝の中学生に大福の開発をしてもらおうとしているところです。その大福を道の駅やふるさと納税で販売しようという話が今進んでいます。地域の人たちと共同で商品開発をすることによって、地域の人たちが自分たちの作った商品としてアピールしてくれることも期待できますし、我々も地域のPRができます。さらに、地域色の強い商品を作ることでインバウンドにもつなげていきたいですね。

──先ほどお話いただいた、地域から海外へということともつながるようなお話ですね。

(駒野さん)3つ目は、十勝・北海道の商品を海外で販売する商社事業です。マレーシアで私たちが成功することによって、とかち製菓がマレーシアで多くのお客さん(企業)と取引をおこなうことになります。メーカーである私たちが商社の役割を担うことで、十勝・北海道のいいものをリーズナブルに届けることができると思っています。最終的にそれが目標なので、どうしてもマレーシアで成功させたいです。今は、マレーシアではいくつかの事業者しか口座を持っていないので、これをコンビニだったり、大手スーパー、飲食店だったりと、どんどん広げていって、その結果、北海道からお届けするものが安いコストで出せる、ということを実現したいです。

編集後記

取材の最後、駒野さんが「カッコいいことを言ってても、ほとんどの時間は不安だったり、怖いんですよ。でも、カッコつけてでも、実現したいことを口に出して言うことが、それを実現しようと思って行動することにつながるんです」とおっしゃっていました。自分にプレッシャーをかけ、自分を鼓舞することで次なるステップに進んでいく姿に、共感や刺激を受ける事業者さんも多いのではと思います。とかち製菓さんの今後の展開に、引き続き注目し、応援していきます!(LAND 高橋)

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