北海道帯広市の事業創発拠点「LAND」

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メイクフィールド

丸井 宏之さん

#14「持続可能な観光コンテンツで地域の課題を解決する!現在注目を集めるアドベンチャートラベルと十勝の可能性」

十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!

今回は、観光面から地域の課題解決を目指しながら、近年国内外で注目を集めているアドベンチャートラベルの観光コンテンツ開発に取り組む、メイクフィールドの丸井さんにお話を伺いました!

メイクフィールド 丸井 宏之さん

プロフィール
丸井 宏之さん(まるい ひろゆき)

1969年生まれ、29年間JTBに務め、旅行業・イベント・着地型コンテンツの開発や販売等の知識経験を積んだ後、2022年3月に退職。
旅行会社では異動があり、大好きな十勝で地域目線の観光振興を行うことが出来ない。十勝に人流を創造し、消費額を拡大したい想いで、2021年8月に個人事業主として開業。

地域の観光資源を利用した、継続的な観光コンテンツを生み出したい

――丸井さんは十勝の観光コンテンツの開発支援をされているということですが、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?

(丸井さん)観光において、その地域の方向性を決めていくのは自治体です。そのため、私は国や道、市町村や地域の観光協会などの組織、またその地域の観光事業者様と一緒にお仕事をさせていただくことが多くあります。具体的には、その土地にどのような特性があり、観光においてどのような解決策が必要なのかを考え、解決に導くコンテンツ造成などを提案させていただいています。現在は主にアドベンチャートラベルに関わる観光コンテンツの開発を道内の各自治体様と一緒に取り組んでいます。

アドベンチャートラベル(以下「AT」という)とは
「アクティビティ」「自然とのふれあい」「異文化交流」の3要素の内、2つ以上の要素で構成される旅行のこと。旅行者が、旅行を通じて自分自身の変化や地域社会への貢献が期待できるとして、ATは欧米を中心に世界中で人気が広がり、さらにアフターコロナの旅行スタイルとしても注目されている。

――十勝ならではの観光コンテンツの開発を進めていく際に、どのようなことを重視して活動されていますか?

(丸井さん)これまでの観光コンテンツは、どちらかと言えば自地域の方々を対象とした単発のイベントが多かったと思います。しかし現在、国や道では「世界から観光客を呼ぼう」「地方都市や国立公園にも送り込もう」「地方でもおもてなしや観光インフラを整備して新たな経済活動につなげよう」という地方創生につなげる動きになっており、今後は地域やその近隣の方々を対象とした観光コンテンツだけでなく、地域にもイノベーションを起こす意味でより効果的なインバウンドに対応したコンテンツが重視されます。そのために、単発のイベントだけではなく、地域ならではの魅力を磨き上げ、継続的な観光コンテンツを生み出していく必要があるため、現在ATが非常に注目されており、メイクフィールドも注力して取り組んでいきたいと考えています。

――現在ATは世界的にも注目されていると思うのですが、十勝おいてはATに対する認識はどのような状況なのでしょうか?

(丸井さん)十勝はまだAT対する機運があまり盛り上がってきていないように感じています。ATは欧米豪を含めたアクティブ層や知的好奇心が旺盛な人を呼び込むことが目的にあるのですが、その層は北海道への観光客全体を見てもたった5%ほどしか存在しません。そのため残りの95%の国内やアジアの観光客をターゲットとしていった方が良いと考える事業者が多いのではないかなと考えています。ですが、ATは環境への負担軽減や、地域コミュニティの発展・維持などサスティナブルツーリズムにも深く関わり、滞在日数や消費額も多く地域経済への貢献度も高いため、その可能性に気づいている事業者も一定数存在します。

――では実際に十勝にとってもATの可能性はあるのでしょうか?

(丸井さん)星付けで有名な会社に25年間在籍され欧米を知る食や観光のプロフェッショナルの方や北海道運輸局様などと過去に調査したのですが、特に文化的観光要素において十勝にとってATは非常に可能性があると示されました。ただ、PRしたからと言って、欧米豪が日本の、しかも北海道の十勝にいきなり来ることはありません。私たちもヨーロッパの初めて聞いた町にいきなり行くよりも、パリやロマンティック街道を先に行きますよね。それまではブラタモリに見られるような知的好奇心層や日本や東南アジアに住む欧米豪の駐在員などをターゲットとして考えています。特に駐在員は本国から離れているので、出張などで航空マイルもため込んでおり手当や福利厚生も手厚いです。高年収で休みもたくさんあります。彼らの嗜好を伝え自治体と共に呼び込み、戦略的に滞在日数を増やし地域への消費額を向上させることは可能ではないかと思います。

――AT層は富裕層ということでしょうか?

(丸井さん)様々なデータから示された通りAT層は富裕層であり教養層なので、確かに彼らの消費額は高額です。ただ、それだけにコストパフォーマンスにはもの凄く敏感な人たちです。つまらないもの・つまらないことには1円でさえも出し渋りますが、価値があり納得するものには高額でも気持ちよくお金を使う人たちです。地球環境に配慮したサスティナブルツアーを好むのもその一つです。移動は極力動力を使わず、プラスチックの容器を拒み、自然を守る事業者や施設を支持し寄付も行います。SDGsが求められる中、私たちが欲していくお客様として、AT層の嗜好や興味を知る必要があるのではと思っています。
 現在、受け入れ体制を整えるためにATの知見がある方とタッグを組んで、欧米豪に響くだろう体験事業者様や文化観光施設様・旅行会社などと磨き上げに取り組んでいるところです。

――十勝で富裕層であるAT観光客を迎える課題もあるということですね。

(丸井さん)私の個人的な考えですが、そもそも観光という観点で考えると十勝に限らず北海道自体が相対的に3つの大きなハンディを抱えていると考えています。地域の力では何ともならない事実認識も必要です。
 1つ目のハンディは「単一の観光コンテンツだけで勝負ができない」ということ。十勝は例えば沖縄と違って一年中スキューバダイビングができるわけではありません。明確な四季があり、一年の半分は閑散期になる春と秋で占められる。夏と冬で別々のコンテンツを作らなくてはならなく、設備投資もかかり冬の悪天候にも左右される。
 また、2つ目のハンディは、「交通の便があまり良くない」という点です。航空便については、特にインバウンドとなると国際線のある新千歳空港から十勝までは距離があるため、地方都市では観光客を引き込むのが非常に大変です。帯広空港も原則羽田線しかなく、関東主体のお客様に頼りがちです。バスも鉄道も新千歳空港から距離が遠くなると金額が高くなり、冬季は冬道運転を諦めレンタカーの自由度も下がります。
 そして、3つ目のハンディは、「周辺人口が少ない地域での労働力の確保が難しい」ということ。これまでと別のコンテンツを作ろうにも、観光コンテンツの担い手の雇用に限りがあり新たな展開が難しいという現状があります。十勝であればアウトドアに力を置いていますが、アウトドアができる町村では欲しい20代・30代の担い手層は一般的に都市部に流れてしまっています。年間を通じて観光客が来れば良いのですが、収益性を考えると安定雇用も難しいことが多いです。
 このような理由から北海道は観光において様々なハードルがあります。しかし、このようなハードルがありながらも、突破するためにATが課題解決に効果的であり、可能性があると思っています。

――ATであれば十勝も可能性があるとお考えになる理由はどのような点なのでしょうか?

(丸井さん)ATは「アクティビティ」「自然とのふれあい」「異文化交流」のどれか2つの要素があれば成立しますが、その中でも私は「異文化交流」が非常に大切だと考えています。なぜなら、欧米豪にとってアクティビティや自然を満喫したいと思うのなら、スイスアルプスやロッキー山脈など、欧米豪には日本よりも雄大な自然は近くにたくさんあるわけですし、そもそも海外のお客さんは多額のお金をかけて日本に来ないのではないかと思います。
 ではなぜ海外の観光客は日本に来るのか?それは日本独特のWonderfulでExcellentな「文化」があるからです。Agriculture=農業と訳されますが、農業にcultureの単語が入っている通り、彼らが言う文化は「暮らし」や「営み」の意味が入っています。その土地のルーツやアイデンティティを尊重し、その地域に根付いた文化(暮らし・営み)に触れ一緒の時間を地域の方とゆっくりと過ごすことが異文化交流につながります。文化という側面で見た時に北海道にはアイヌ文化があり、十勝には馬文化があります。ATで来る欧米人や知的好奇心が旺盛な海外の観光客は、日本のその地域の文化について聞き、聞いたことを実際に自分でも体験してみるという経験がしたくて日本に来るのです。そのためATにおいてお客さんを満足させるための説明力・説得力が非常に大切なのです。求められるのはレベルの高いコミュニケーション力やトーク力であり、それさえきちんとできれば経費はほとんどかかりません。現在のアウトドア事業者が領域を広げ、ATの文化的観光要素を加えれば領域は広がりますし、悪天候時の振り替えや閑散期でも行うことができるのです。ATのインバウンド層は基本的に1つの場所を拠点にしながら10日間~2週間ほど滞在したいため、消費額が非常に大きく、気に入られた地域に対しては高い経済効果をもたらします。
このような点から、ATであれば十勝においても非常に可能性があると私は考えています。
 一方で、先に挙げたような観光コンテンツの充実化や担い手不足といった北海道観光における課題については、国や道と共に引き続き取り組んでいかなければならない点ではあります。関係人口を増やすことも必要で、メイクフィールドではワーケーションや移住施策への取り組みも行っています。

(キャプション:丸井さんが携わったアイヌにおける観光コンテンツ実施の模様)

観光で地域の課題を解決していくための取り組みを行いたい

――現在ATなどの取り組みを積極的にされていますが、今後取り組んでいきたいことはありますか?

(丸井さん)一言で言うと「観光で地域の課題を解決すること」に取り組んでいきたいと考えています。成果目標として具体的に掲げている点は2つあり、1つ目はその地域で人流を生み出すこと。2つ目は消費額を向上させることです。このためには、地域外から人をたくさん呼び込み、お金を消費してくれるような持続可能な観光コンテンツを作る必要があります。しかし、私1人ではできることに限界があるため、今後は同じ目標に向かっていける人材を育てていきたいと考えています。

――最後にこの記事を見ている方にメッセージをいただけますでしょうか?

(丸井さん)私は現在1人で活動していますが、今後持続可能な観光コンテンツを作っていくためにも、まずはメイクフィールドとしても持続可能な体制を整える必要があります。そのため、一緒にお仕事をしてくれる方を探しています。観光で地域の課題を解決していきたいと思っている方、自ら企画提案することやプロジェクトマネジメントに興味がある方がいらっしゃいましたらぜひ一緒にお仕事をしていきたいです。

今後世界的に益々機運が高まっていくと考えられるATですが、2023年9月に札幌市を主会場に開催される世界的な観光商談会・イベントである「アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)」会期後に、同サミットへの参加者が実際にツアーを体験する「ポストサミット」の開催が帯広市において予定されています。
十勝でもATに先進的に取り組まれている丸井さんの言葉には、ATに込めた熱い思いを強く感じました。

LANDとしても丸井さんの活動を応援していきます!

丸井さんの取り組みをわかりやすく紹介している漫画がありますので、こちらも併せてご覧ください。

北オホーツク100kmマラソン誕生秘話

北オホーツク100kmマラソン誕生秘話の10年間(第2部)

協力

帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会

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