十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
北海道十勝・上士幌町の大自然の中で様々なモノゴトを体感し、自分と向き合う時間を過ごすプログラム「MY MICHI(マイミチ)」を実施する、㈱マイミチ 代表取締役の西村さんにお話を伺いました!
十勝で、遊び、学び、働くことで若者たちや地域にどのような変化が起こるのか?!どうしてこのプログラムを生み出したのか?西村さんに聞きました!
株式会社マイミチ 西村 剛さん
プロフィール
西村 剛さん(にしむら つよし) 株式会社マイミチ 代表取締役大阪府出身。広告代理店<(株)TM,C>を経営しながら、阪神大震災の被災地支援や起業支援に関わる。2007年に十勝の鹿追町に訪れたのをきっかけに十勝での交流を広げる。
その後、2018年に地域おこし協力隊員として上士幌町に移住。協力隊の業務の一環としてまちづくり会社「㈱生涯活躍のまちかみしほろ」に参画。まちづくり会社で企画・担当した「MY MICHIプロジェクト」を独立させる形で、2021年 ㈱マイミチ設立。
ーー「MY MICHI(マイミチ)」とはどのようなプログラムなのですか?
(西村さん)「トマル、だから、ススメル。」 自分のやりたいことがわからない、自分が何者かわからない、ひとりでは何をどうすればいいかわからない。就職、転職、起業、結婚、、、 誰もが生きる中で節目の時があり、その大切な時に一度立ち止まり、ひとりひとりの歩んできた「ミチ」を振り返りながら、自分を活かす「自分の道=マイミチ」を見つける。
マイミチは、自分と向き合う時間を求めている39歳までの若者を対象にしたプログラムです。
フィールドとなる上士幌町には、暮らしの近くに豊かな自然があり、都市にはない人と人のつながりが色濃く残り、生きることに深く関わる食糧の生業がある。日常から離れ、ここで1か月仲間と共同生活をしながら、地域の資源を活かした「遊ぶ」「働く」「学ぶ」体験を通して、自分自身の活かし方や自分の軸を見つけることを目指しています。
プログラム参加メンバーと西村さん
ーー自分と向き合う時間とは、具体的にどのように行っているのですか?
(西村さん)参加者は事前のオンラインミーティングで、マイミチへの参加動機、さらにこれまでの自分の歴史を「マイストーリー」としてヒアリングを重ねまとめていきます。
忘れてしまっている過去の経験を思い出す。頑張っていた自分も、踏ん張っていた自分も、良い経験も苦しい経験も含めて、自分の経験に価値を見出し、経験値として活かすことは自分にしかできない。そのことを参加者一人ひとりが自覚することで、自分と向き合う準備ができます。
その後、上士幌町に来町し1か月間の現地プログラムが始まります。三国峠のダウンヒルサイクリング、糠平のネイチャートレイル、名物の熱気球体験、さらに牧場や農場の仕事、高齢者の困りごとを解決する地域の取り組み、参加者自らが企画運営するカフェ&バーなど、様々な体験や住民と関わりを経験します。そして現場で自分がどんなことを感じたか、自分にはどんな特徴があるのか、日々振り返り、仲間たちと語り合うことで、内省を繰り返します。
1か月の締めくくりは、上士幌での生活で自分自身の変化を「マイプラン」として作成し、お世話になった町民の方々を招き最終報告会の場で発表します。
最終報告会の様子。参加者は自分の成長を報告する
――自分自身を見つめなおすプログラムなのですね。地域をフィールドにしているのはどんな理由があるのでしょうか。
(西村さん)自分の本音と向き合うためには、これまで関わってこなかった人と関わったり、何かに挑戦できる環境が大切です。地域を探求のフィールドとすることで、様々な業種の方と交流できたり、地域ならではの課題を感じる機会を作れます。会議室で行うワークショップでは得られない経験ができ、参加者の興味関心に合った相手の話を聞けることも魅力です。
また、住民にとっても、若者を受け入れ、まちの魅力や大切にしてきたことを伝えることで、自分のまちの価値を再認識できます。都会と違い、地域では顔が見える関係を作れるので、若者の熱意や本気さが伝わり、住民は熱心にまちの魅力を伝えてくれます。住民と若者が「まちについて学び合い」、「まちにあるものを活かし合う」状態を作れることに価値を感じ、地域を舞台にしたプログラムを作りました。
十勝の自然や農業などの仕事を通じてまちと関わっていく
――お互いに良い影響があるのですね!プログラムの内容に変化はあるのでしょうか?
(西村さん)回を重ねるごとに、プログラムの内容も改善を繰り返しています。元々は体験プログラムが中心でしたが、体験することが目的となり自分と向き合う時間が限定される。参加者も体験する内容に期待が膨らみ、次は何をさせてくれるの?とお客様的な立場になる。マイミチは単なる体験旅行ではなく、その経験を自分の活かし方を見つけることに役立てるのが目的であると再確認しました。
改善としては、事前のオンラインミーティングを重ねることで参加者がマイミチの主旨を理解し、現地では参加者同士のシェアタイムを充実させ、一人ひとりの学びや気づきを共有し全員で活かせるようにしました。
結果、自分について本音で語り合った参加者同士の理解が深まり絆が生まれ、プログラム終了後も交友関係が続いています。兄弟姉妹の家族のような関係を見ているとほんとうれしいことです。
――自分を理解してくれる人ができるのは嬉しいですよね。地域や参加者にはどんな効果があるのでしょうか?
(西村さん)参加者のほとんどが、このプログラムや上士幌町の事を大好きになってくれます。インターンとして次のプログラムのサポート役で入りたいと希望してくれる方も出てきました。
地域にとってマイミチは、関係人口を増やしていくプログラムです。「自分が変われた、自分を見つけられた場所が上士幌町」となればその人にとって上士幌町は第二の故郷であり、特別な場所となります。そうなればこちらから働きかけずとも、いずれ何らかの形で上士幌町と関わってくれます。実際に、昨年参加した20人のうち13人が延長滞在(7人)、再来町(6人)してくれました。
絆が生まれ自分が変わることで、上士幌町が特別な場所になる
――西村さんは上士幌町に移住される前はどのような活動をされていたんですか?
(西村さん)元々は広告代理店で勤務していたんですが、2000年に阪神淡路大震災で被災した神戸市長田区の商業地の支援を行うため会社を作りました。動機は、復興に向けて「子供から大人まで、誰もが協力して支え合う姿」に感動し、災害時はもとより、日常の中で人が本来持っている思いやりや支え合いが自然と湧き出るフィールドをまちづくりで実現したいと思いました。
当時の復興支援の仕事では、人の役に立ちたい、困っている人をなんとかしたいという気持ちで必死に取り組みました。ただ30歳代前半の自分は自己犠牲が強く、非力さや未熟さを責めたり、復興という課題の複雑さ、従業員のマネジメントなどで負担が重かった。そんな中で5年間の契約終了するまで走り続けましたが、その反動もあり2005年に心を病んでしまいました。その後の2年間とても苦しく辛い時期でした。でもそれが、ターニングポイントになるんです。
――大変苦しい思いをされたんですね、どのような転機になったんですか?
(西村さん)一度立ち止まって自分を見つめ直すために違う環境に行きたくなり、2007年7月に初めて十勝を訪れました。鹿追町の藤田ファームさんでファームステイをしながら過ごした日々を通して、広大な自然、温かく受け入れてくれた地域の人、好きなことを仕事にする移住者の方々、初めて目にした酪農や畑作の現場など、十勝と関わることでもの凄い刺激を受けたんです。十勝という地域の可能性を感じ、この地で自分のように一度立ち止まって生き方を見つめたい人に機会を提供したい、そう思いマイミチの原型である「十勝ファーム留学計画」を作成し、町に提案しました。十勝で活躍する方々を訪問・取材して、その魅力を確信しましたが、マネタイズの問題で事業化は実現しなかったんですけど、、、
鹿追町滞在中に作成した「十勝ファーム留学計画」
――初めて来た土地で事業プランを提案するなんてすごいモチベーションですね!(笑)
(西村さん)それぐらい十勝が刺激的だったんです(笑)
それから2013年までは、浦幌町の「うらほろスタイル」さんや若手農家が集まった「十勝おやじの背中を超える会」など、鹿追だけでなく十勝を拠点に様々な方と交流しました。
心身も回復し、2013年から全国を回って活動する中で、地域で活躍するプレーヤーは皆共通して自分としっかり向き合っている人が多いという事に気づき「自分というものをどう捉えるか」という事が大切だと学びました。
その気づきから、マイミチのプログラムが生まれました。若者に新しい出会いを提供し、自分と向き合う時間を過ごすことで「自分だけの道」に出会ってほしいと思ったんです。
――西村さん自身の気付きから生まれたプログラムなんですね!
(西村さん)その後、十勝でこのプログラムに取り組みたいと思い、2018年10月に地域おこし協力隊として上士幌町に移住しました。移住して3年間は、地域おこし協力隊、まちづくり会社の社員として「㈱生涯活躍のまちかみしほろ」でまちづくりの様々な事業に携わりました。役場、学校、商工会、農協、事業所の方々、そしてたくさんの町民の方々と関わる機会を頂けた。そして出会った方が本当にあったかくって、やさしくって、この町なら全国の若者を受け入れてくれる、そう思いマイミチを上士幌町で企画・実施するに至りました。
そしてマイミチの事業に本格的に注力していきたいと考え、2021年10月にまちづくり会社を退職。独立して今に至ります。あらためてマイミチが実施できるのは、温かく受け入れ、応援してくださる町の方々のお陰と感謝の気持ちでいっぱいです。
地域おこし協力隊時代の西村さん
――西村さんはこれからどんなことを目指していますか?
(西村さん)マイミチをひとりでも多くの若者が参加できるプログラムにしていきたい。
そのために若者を担い手として求める地方自治体や企業などと連携し、マイミチが継続的に行えるよう事業費を確保することが当面の目標です。
今年度のプログラム期間終了後も上士幌町に残りたいと言ってくれる希望者が出ているのですが、そういう人が上士幌町に滞在できるような拠点を作りたいと思っています。並行して拠点滞在中に地域の仕事をしてもらえるような仕組みづくりを進めていこうと思っていて、その流れが上手く繋がれば地域にとってより良い循環が生まれていくのではないかと思っています。
また、上士幌町だけでなく十勝の他市町村ともそれぞれ連携したプログラムを作っていきたいです。若いころは誰でも迷って、先が見えなくなる時があるじゃないですか。そんな時、自分探しに海外を旅する人がいますが、自分を探す場所が海外ではなく十勝になればいいなと。「自分を探すなら十勝に行こう!」みたいになると面白いなって思います。
そうすることで、若者にとって十勝が自分を見つける特別な場所になって、どんどん地域と関わってもらえるのではないでしょうか。そんな未来を作っていきたいですね!
十勝が若者にとっての特別な場所になって欲しいと西村さんは語る
ー--自分を探す若者と地域を掛け合わせることで、お互いにとって価値のある循環を生み出そうとしている西村さん。インタビューの中で西村さんは、参加した若者たちの成長を嬉しそうに語っていました。目に涙を浮かべながら話す場面もあり、西村さんの優しさを強く感じました。挑戦的でありながら丁寧に人と向き合う西村さんの取り組みが、これから十勝に広がっていくのを期待しています!LANDはこれからも、西村さんの取り組みを応援します!
帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会
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