十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
今回は、大人の学び場「とかち熱中小学校」で、一流講師の授業や参加者同士の交流から「学びなおし」につなげ、人材育成のみならず十勝の「稼ぐ」を創出するきっかけづくりを行う、とかち熱中小学校の亀井さんにお話を伺いました!
とかち熱中小学校 亀井 秀樹さん
プロフィール
亀井 秀樹さん(かめい ひでき) とかち熱中小学校 事務局長福岡県生まれ。幼少期をオーストラリアで過ごし高校時代に帰国。外務省や国連などのPR制作や翻訳などを手掛ける会社などを経て2014年4月から2016年9月まで更別村の地域おこし協力隊として活動。在職中は、特産品開発や観光振興を担当し、民間企業と行政のパイプ役を担う。2016年から、(一社)北海道熱中開拓機構業務執行理事、とかち熱中小学校の事務局長を務める。
――福岡県出身とお聞きしました。十勝・更別村に移住したきっかけはなんですか。
(亀井さん)タイヤメーカーで働く父の転勤で幼少期をオーストラリアのアデレードで過ごしました。
現地の人から日本のことに興味をもって質問されても答えられないことが多くありました。漠然と日本人というアイデンティティの大切さと、私の返答によって日本の印象を左右してしまう可能性があることに気づきましたね。
こうした経験から、『私はどうして日本のことを知らないのだろう・・・』と思い、ふるさとのことを学びたいという気持ちが根底にあったと思います。
当時流行っていたRPGゲームで、小さな村からスタートして村人に話しかけながら進めていくものがあって、妙に村文化に惹かれていました。それで日本に帰国後、夏休みを使って鈍行列車で47都道府県を旅したのですが、鈍行だったので各駅で乗降する人たちの話す言葉や駅の様子が少しずつ変化していることに気づきました。これが特急列車なら気付かなかったと思います(笑)。そういった経験も、『村』というものに興味を持ったきっかけだったと思いますね。
オーストラリア時代の亀井さん
――なぜ十勝を選ばれたのでしょうか。
(亀井さん)最近は外国から見た日本の印象を扱うテレビ番組が多いですよね。本来は自分たちが発信していく必要があるのに、自分の住むまちや国について関心を持つ人が少ないのかな、自分の口で説明できるスキルやマインドが必要じゃないだろうかと考えるようになりました。
大学卒業後は、海外の貧困などに興味があり東京で国連機関などを支援する職に就きました。一方で国内をみると、人口減少や過疎地域が増えていることが気になっていました。こうしたなか30歳を過ぎてセカンドキャリアを考えていた時期に、地域おこし協力隊の制度を知り十勝に行こうと決めました。
十勝は初めて訪れた際になぜか初めてじゃない感じがして、十勝平野のスケール感や豊かな自然環境が幼少期に過ごしたオーストラリアにどこか似ていると感じて選びました。
――十勝で熱中小学校を始められたのはどのような経緯があったのでしょうか。
(亀井さん)車社会で子供の行動範囲が狭いなか大人たちが行き先を選び、子供自身が好きなところへ能動的に行けないことで偶発的な出会いが少ない現状があります。人との出会いの数は人口に比例してしまいます。そこに地域と首都圏の格差があると感じています。
ここに住む私たちは東京には無い価値について教わらないですよね。まちには何もない、商業施設がないことがダメなのではなく、東京にはない豊かさに気づかせていくこと、つまり未来の子供を変えるには大人たちがマインドを変えていくことが根本的な課題解決に繋がると考えています。
ここに住む私たちが普段当たり前だと思っているモノやコトが、外の人から見た時には違う価値として伝わるのだと気づいてほしい。様々な背景をもつ子供が集まる小学校と違って、大人になると特定の業種や分野に限定されがちで、環境が異なる多様な人に会うことが少なくなりますよね。だからこそもう一度そういった機会を熱中小学校を通じて体験してもらえるようにしたいと考えています。
更別村に来た当時は地域おこし協力隊の任期が3年程度と短いなかで、少しでも民間と更別村をつなげていくために、できるかぎり外に出て、多くの人と出会い繋がりを増やしていきました。地元の若者と協力して十勝の未来を語るようなBARイベントなども行っていたのですが、こうした活動を堀田一芙さん(熱中小学校創設者)がSNSなどで見てくれており、とかち熱中小学校の開校までつながっていきました。
とかち熱中小学校での授業風景
めむろ食の熱中小学校~スイートコーン収穫体験〜
――2022年度の全国で実施されている「熱中小学校」の参加者は1,100人、平均年齢は53.1歳ですが十勝は何歳程度ですか。
(亀井さん)現在、全国21地域と米国シアトル1地域が連携し、22ヶ所に発展した熱中小学校ですが、直近でいうと十勝での平均年齢は49歳(全国平均53歳)です。一般的に『学びなおし』と言うと、生涯学習と捉えられることが多くて、参加者は60~70代が中心となることが多いですね。一方で、熱中小学校としては参加者の事業創発や起業創業も念頭に置いており、かつ年齢の多様性が重要だと感じているので、今は40代をピークにバランスの良い年齢構成になっています。全国的にも十勝の参加者は若いと言われています。現役世代、特に20~30代は2期程度参加すると自分でやりたいことが分かってきて、新しい挑戦に専念するため巣立っていく場合が多いです。
継続していくうえで熱中小学校も性質変化していて、現在では学びなおしの場としての機能のほか、生徒自身も精力的に活動していたり、ユニークで魅力的な人が集っていて、前向きで活発なコミュニティと捉えてくれている人が増えている印象です。UターンやIターンで、十勝に来る方が、まずは熱中小学校に入学して、地域の情報収集や仲間づくりの場として活用している例も増えています。
――熱中小学校の運営に当たり、大事にしていることは何でしょうか。
(亀井さん)人口を奪い合っても奪われた方が衰退しては元も子もない。関係人口を増やすことが大事だと考えています。
とかち熱中小学校の生徒では2割程度が道外からの参加者です。こういった方が一定数いて地元の参加者との活発な交流を生み出しているということが強みで、外国の観光DMOでは観光入込客数ではなく、地元の人の生活がどれだけ豊かになったかをKPIとしているといった話も聞きます。
――コンセプトに掲げる『もういちど7歳の目で世界を...』とはどういうことなのでしょうか。
(亀井さん)よく、コップに水が半分入っていて『まだ半分ある』あるいは『もう半分しかない』って、どちらの視点で捉えるかという話がありますよね。私は『コップに水が入っていない』状態、つまり何でも吸収できることが理想だと思っています。
熱中小学校の流儀として一番目にあるのは、『楽しいこと』。まず楽しまなければ物事は続かないと考えていて、楽しいことを続けていくために見方を変えていく。大人になると常識や価値観が優先して可能性に蓋をすることがもったいないですよね。
例えば、小学校でのシャープペンシルを使ってはいけないというルール。それらしい理由はあるんでしょうけど、なぜダメなんだろうという疑問を持つことが大切。これが原動力になります。思考を止めることなく、こういったマインドを皆が持つと変わっていくんです。
――他地域の熱中小学校とはどのような関わりがあるのでしょうか。
(亀井さん)現在、22校(国内21校・海外1校)までに成長した各地の熱中小学校はそれぞれが独立して運営しています。東京東信用金庫主催の『ひがしんビジネスフェア(両国国技館)』で全国の熱中小学校が集まって地域の産品をPRするイベントがあって、地域の特色の違いに改めてみんなが気付きました。このような他校との交流をきっかけとして当校で実施している雪中運動会にも全国各地から参加する方が出てきています。嬉しいことに、十勝の生徒から他の地域と繋がりたいという声も多くなっています。
とかち熱中雪中運動会の様子
――亀井さんは十勝をどのような地域にデザインしていきたいですか。
(亀井さん)学びがテーマで、学びなおしをコンセプトに置いて生涯学び続ける、続けたい人(ライフ・ロング・ラーナーズ)を増やすことで、幸福感が高い人を多くしていきたい。そうして外から賑やかで魅力的に見える地域になれば良いですよね。つまり本質的な部分で、幸福な人が集まっている地域にしたい。学んでいく中で行動変容し、思考停止せずに動き続ける人が増えていく地域ということでしょうか。そうなれば、楽しそうなまちに変わり、自然と人が引き寄せられると考えています。
――「十勝で稼ぐ」に繋げるためにはどのような取り組みが必要でしょうか。
(亀井さん)生徒が主役なので、彼らが活躍していく装置の一つとして当校が機能すれば嬉しいです。当校としてはサテライトを十勝19市町村へ広域化していきたいと考えており、十勝各地で実施することで、市町村間の人材交流や新しい人間関係づくりを目指しています。企業版ふるさと納税を活用した人材育成や事業創発などを目指す自治体とも、さらに連携を強化していきたいです。
これからのことで言えば、十勝の強みである食と農林漁業を柱として、生産者と消費者をつなぎ、食べる楽しさを育むコミュニティづくりを目指す『食の熱中小学校』の取り組みを発展させていきます。食料基地の十勝で実際に何が誇れることなのかを知る機会を提供することで、消費者の責任としてそういったものを支え持続させていくことを目標としています。生産者、消費者、加工者が近いところで学ぶことで、よりお互いの理解が深まり、これまでになかった新しい発想が生まれ、挑戦したい人とサポートする人の有機的なつながりを生み出すことで、新事業創出などの支援に繋げていきたいです。
とかち熱中小学校では前向きで活発なコミュニティが生み出されている
「われわれはバックミラーを通して現代を見ている。われわれは未来に向かって、後ろ向きに進んでゆく」。
メディア論のマーシャル・マクルーハンの言葉です。
今回の取材を通してSNSや情報が過多な現在に、自ら考えていく重要性を再認識させられました。
そして、自ら考えていくためには本物の経験を見聞きすることが大切であり、また見聞きするだけではなく好奇心をもって物事を捉えていくことが大切であるということに気づかされました。
亀井さんの話を聞いて興味をもった方、熱中小学校の門を叩いてみてはいかがでしょうか?
帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会
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