十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
「自然・地域・仕事とつながる。」をコンセプトに、十勝本別町産の玉ねぎの外皮などの農業や産業の中で廃棄されるものと、阿寒湖温泉の温泉水により染色を行う洋服ブランド、”nosome”(ノーサム)を運営する合同会社ノーサムの円城寺さんと尾崎さんにお話を伺いました!
合同会社ノーサム 円城寺 篤さん、尾崎 将寛さん
プロフィール
円城寺 篤(えんじょうじ あつし)さん 合同会社ノーサム共同代表
1986年帯広市生まれ。阿寒湖温泉で温泉民宿「山口」を営む傍ら、高校時代からの友人である尾崎さんと共に2021年に合同会社ノーサムを設立。
尾崎 将寛(おざき まさひろ)さん 合同会社ノーサム共同代表
1986年更別村生まれ。札幌の大手企業で営業を行なった後に十勝にUターン。本別町で「おやきやTOTTE」を経営。
――nosome(ノーサム)の名前の由来はどのようなものなのでしょうか?
(尾崎さん)十勝平野の「野」、野遊びの「野」と、ローカルにある地域の色で「染める」というコンセプトをローマ字で表した造語で、私たちの考える全てのコンセプトがこの名前の中に込められています。
(円城寺さん)地域にあるものを「再認識」することによって、新たな価値観を提案していきたいと考えています。
――帯広市内にある現在の店舗は元々円城寺さんが飲食店を経営されていた建物とのことですが、その場所でどのようなきっかけでノーサムとしての活動を始められたのでしょうか?
(円城寺さん)新型コロナウイルス感染症の影響で飲食店事業が立ち行かなくなるのではないかという不安もあって、一緒に何か新しいことをやりたいねと話していたところからスタートしました。最初はデニムを作るといった構想もあったのですが、「染色」ということを考えた時に本別町には玉ねぎの外皮がありましたし、まずは地元にあるものを使って始めてみようということでサンプルを作り始めました。
(尾崎さん)コンセプトはほとんど一日で、自分の頭の中で固まりました。自分は信じられないくらい頑固だと思っていて、柔軟性はゼロ(笑)。ただ、最初からこれだなという感覚はあって、自分の頭の中にあったものを当てはめていった時に、今の形しかなかったということがあります。現在は、十勝出身のもう一人のメンバーと三人で活動を行なっています。
――本別町産の玉ねぎの外皮を使った染色からスタートしたとのことですが、その他のものでも染色を行なっているのでしょうか?
(尾崎さん)第二弾として、池田町の十勝まきばの家ワイナリーでワインに使用した後のブドウ滓を使って染色した製品を先日リリースしました。その他にも、地域のこんなものを使ってみないかといったお声を多くいただいており、サンプル品の試作を行なっているような状況です。こういったコラボレーションは、ノーサムのSNSや新聞・テレビを見た方からご連絡をいただくこともありますし、元々の商売での繋がりやポップアップ出店で出会った方から繋がることもあります。
帯広市内にあるノーサムの店舗にて。取材中にも土産物を作りたいとの相談の電話が入る
――服を作る上でのこだわりは、どのような点にあるのでしょうか?
(尾崎さん)現在の洋服のボディはアメリカ製のものを使用しています。これは元々アメリカが好きでかっこいいものを作りたかったということもあるのですが、耐久性を重視してのものです。来年からは、一度ご購入いただいたノーサムの製品で色落ちしてきたものをリダイング(再染色)する事業を始めたいと考えているのですが、薄い生地のものだとそれが難しいんです。国産のボディもいろいろと試したのですが、やはり将来的にリダイングして長く着ていただきたいということを考え、耐久性の高いアメリカ製のボディに行き着きました。また、無骨なものや大雑把なシルエットが十勝には合うのかなとも考えてのセレクトです。
(尾崎さん)また、「捨てられるものでしか染めない」「まだ機能性を残しているものは使わない」という絶対的なルールをブランドに課しています。面白い新たな染料が見つかっても、そういったルールに合致しないものは残念ながら使えないという場面もあるのですが、逆にそういったルールがあるということが面白いと自分たちでは捉えています。
――今年は、フィールドグッドフェスへの出店や札幌パルコ、江別蔦屋書店でのポップアップ出店なども行なわれていましたが、そこではどのような反応があったのでしょうか?
(尾崎さん)出店する前は自分達と同世代くらいの方々からのリアクションが多いのかなと考えていましたが、想定していたよりも上の層の方々からの反応も多くありました。ポップアップショップで直接お客さんとコミュニケーションを取る中で、「どんなことをやっているんですか?」とか、「着るワインって何ですか?」といったような質問をお客様からいただき、直接的なコミュニケーションを通して購入に繋がることも多く、ご自身の購買行動の意味について考えている方に響いているという手応えはあります。お客様と直接話す中で反応やどんなニーズがあるのかといったことも分かりますし、ポップアップショップは今後も続けていきたいですね。ただ、お客さんからの声を製品にそのまま反映するのではなく、少し違った「変な叶え方」をしていきたいなという気持ちも常にあります(笑)。
(尾崎さん)私たちのブランドは、玉ねぎの収穫スケジュールに合わせて製品を作るといったように農業や産業に密着しているため、一般の洋服ブランドのように毎年決まったタイミングで製品をリリースするといった動きにはなりません。なので、単純にTシャツが欲しいという方がノーサムの商品を手に取ることは少ないのかなと考えていて、私たちの製品に対して「北海道らしくていいね」といったような反応をお客様からいただくことから考えると、地域への愛着が強い方や、商品の制作プロセスを楽しんでいる方にご購入いただいているという印象です。ただ、もっと幅広い層に響くテーマで活動しているとも考えているので、表現の仕方をもっとアップデートしていく必要性も感じています。
札幌パルコでのポップアップ出店
江別蔦屋書店でのポップアップ出店
――事業の中での現在の課題はどういったものなのでしょうか?
(尾崎さん)奄美大島で行なわれている天然の染色方法である「泥染め」に以前から注目しているのですが、染色技術に関して関心のあるものは何でも見に行きたいと思っています。また、下川町で草木染めを行なっている「採色兼美(さいしょくけんび)」では、バイオマス発電所から出る焼却灰に含まれる金属成分を媒染剤(液体に溶ける性質の染料(分子)を繊維の中で溶けなくし、色の定着を助ける働きをする薬品)として再利用することで資源の循環を目指していますが、私たちもそのような資源循環のあり方を考えていかなければならないと考えています。
(尾崎さん)染色の文化にはその土地独自の地域性がありますし、それが日本のファッションの礎だと考えています。染色は物流が無い時代のローカリズムの最たるもので、その地域によって多様な原料があるんです。例えば色素成分の多い木は日本の南部に多く生息していますし、それを煮出して布に揉み込み、自然界にある鉄分を含む泥に漬けるのが泥染めです。その他でも、例えばタデやヨモギは北海道のローカルカラーですよね。ノーサムの場合は、最初にまず阿寒湖の温泉に布を漬けるということと、玉ねぎの外皮のような地域にある資源を使うということに独自性があるのですが、そういった地域に伝統的にある「色」を楽しむということと、文化や方法論を自分達になりにアップデートするために農業や産業といった「仕事とつながる」というコンセプトを持っています。農作業などの仕事の中から生まれたものや廃棄物を「再認識」した結果としてのカジュアルウェアがノーサムなんです。
ブドウ滓で染色を行なっている様子
――今後はどのような展開を考えているのでしょうか?
(尾崎さん)今後はノーサムを全国規模で展開していきたいですね。ノーサムの服は「阿寒、本別、帯広と旅してきた服」と謳っているのですが、ノーサムをきっかけに北海道に関心を持ってもらえた方々に、帯広から本別を経由して阿寒湖まで行ってくれるような、この逆ルートで旅をしてもらえるようになると最高ですね。「地域への新たな目指し方」として、それを実現したいと考えています。
(尾崎さん)また、この地域を魅力的なものにしていくために、十勝の地元企業の方々はこれ以上ない100点満点の働きをしていただいていると考えています。そこに私たちはまた違う、少し変わった角度からの行動力で地域にお返しできるような取り組みをしていきたいと考えています。また、十勝にはニッチで魅力的な活動がたくさん溢れていますし、そういったユニークなアクションの一つになっていきたいですね。
十勝の魅力として一般的に語られる美味しい食や自然環境が衣食住の「食住」であるとすると、ノーサムが目指すのは「衣」を通じた地域の新たな魅力の創造。
またお二人は、その場の瞬間で終わってしまう消費ではなく、長く十勝を感じられるという価値を提供していきたいと言います。
ノーサムの活動について生き生きと楽しそうに語るお二人の姿から、十勝の新たな色が見えた気がしました。
LANDとしても円城寺さん、尾崎さんの活動を応援していきます!
帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会
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