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スペースアグリ株式会社

瀬下 隆さん

#18「宇宙先端企業からの転身!地域に根差したWIN-WINな関係で進化(深化)するサービス!」

十勝の事業創発につながる企業の取り組みを、LANDスタッフが取材し掲載する「LANDSCAPE」!
今回は、宇宙から大規模畑作農業支援を行うスペースアグリ株式会社の瀬下さんにお話を伺いました!

スペースアグリ株式会社 瀬下 隆さん

プロフィール
瀬下 隆さん(せしも たかし) スペースアグリ株式会社 代表取締役

東京都出身。東京の大手重工業で純国産ロケット「H-ⅡA(エイチツーエー)」のエンジン開発などに参画し、文部科学省に出向して宇宙行政にも関わった。2011年からは、人工衛星によるリモートセンシング(遠隔測定)の活用を担当。農作物を生育管理するシステムの開発を十勝で進めたのち脱サラし、スペースアグリ株式会社を創業。

宇宙への情熱!遠い宇宙からの情報技術を手の平で活用する!

ーー提供するサービス(リモートセンシング:通称 リモセン)について教えて下さい。

(瀬下さん)十勝とオホーツク地方、道北や道央を中心に農作物の生育マップや施肥(せひ)マップ提供のサービスを展開しています。
地球を観測する人工衛星PlanetDove(プラネットダブ)のデータを購入し、その衛星データを基に農作物の光合成の様子などから生育状況を分析し、その結果を地図に色分けして生育マップとして提供しています。晴れれば毎日撮影可能で、撮影した翌日に分解能3メートルの画像を見ることで、作物の生育状態や異常の早期発見に繋がります。2023年からはSentinel2(センチネルツー)のデータを基本として配信するので、2日〜5日に1回の頻度で分解能10メートルの画像となります。オプションとして、PlanetDoveのデータ配信も予定しています。
生産者は、パソコンやスマートフォンで地図を閲覧すれば、肥料を与えるべき場所が一目で分かるという仕組みになっています。
加えて、生育マップの元データから施肥マップを作成するツールを希望者に提供しています。作成された施肥マップを自動で可変施肥できる機械や自動操舵(そうだ)トラクターに読み込ませることで自動可変施肥を実現し、生育に合わせて効果的に肥料を与えられることで効率化に貢献しています。

ーー社名の「スペースアグリ」は宇宙と農業の掛け合わせですが、宇宙への関心はいつ頃からあるんですか?

(瀬下さん)私が子供の頃、1969年にアメリカのアポロ11号が月面着陸したニュースを見たことが衝撃的でした。その後、宇宙で戦う戦艦やロボットのアニメを見て、「宇宙を舞台にした世界が本当にできる!」と思い宇宙に関わる仕事がしたくなりました。
その後、大学に進学したものの、学生あるあるだと思いますが前半は麻雀やパチンコに明け暮れていました。幸いにもギャンブルの才能が無いことに気づくことが出来たので、それ以降は遠ざかっていますが(笑)。学生の本業に戻ってからは、機械工学科に進みモノづくりについて学びました。

――大学卒業後、東京の大手重工業で何を担当されていましたか?

(瀬下さん)ロケットづくりがしたかったので重工業会社でターボポンプの開発に従事しました。入社当時はH-Ⅱ(エイチツー)ロケットの開発基礎段階でした。それからH-ⅡA(エイチツーエー)ロケットにも加わりましたが、これらは宇宙開発事業団 (NASDA)と後継法人の 宇宙航空研究開発機構 (JAXA)と 三菱重工 が開発・製造および打ち上げを行うロケットでした。
その後、GXロケットのプロジェクトへ参画したのですが、これは前述のロケット開発に国が関与するものではなく日米の民間企業が出資し2001年に設立したギャラクシーエクスプレス社(GX社)が製造を目指すものでした。とても刺激的な期間でしたが、この間1999年HⅡロケット8号機の打ち上げが失敗に終わり、国のロケット関係予算が凍結されてしまうといった向かい風の状態でした。

――ロケットから気象、畑作のリモセンに研究対象が変わったきっかけは何でしょうか?

(瀬下さん)文科省で宇宙政策分野の民間募集(2006年~2011年)があったことがきっかけでした。そこでロケットに関わるポンプではなく、ロケット以外の宇宙関連業務について担当することになりました。
任期を終える頃には、「国の予算頼みではなく民間主導で宇宙関連事業をやりたい!」という気持ちが溢れていました。タイミングの良いことに、会社に戻ってすぐに社内ベンチャーで新規案件が動き始めていました。もともとはロケットを輸送手段として打ち上げ、そして衛星から地球を観測したいと考えました。
次に対象をどうするか。林業は木の生育速度が緩やかなため観測が必要とされる数が1年に3回と低頻度になり、漁業は回遊するため数時間単位で高頻度となり対応できません。一方で農業は1週間で1回程度と間隔に問題はありませんでした。
最後に決めるのは農業なら水田と畑作どちらにするか。当時、大手他社メーカーは既に水田の衛星観測に取り組んでいたので競合になりますし、米は政策の動向に影響を大きく受けることがあるといった点を考慮し畑作を研究対象に決めました。

走り続けたからこその出会い!支えられたからこそ、今がある!

――リモセンは数十キロレベルの広範囲=海外で先行しているイメージですが、大規模という点で国内では十勝が選ばれたということでしょうか?

(瀬下さん)圃場(ほじょう)1枚あたり2ヘクタール程度あれば、10メートルメッシュで対応できるので特に大規模だからと選んだ訳ではないんですよ。
畜産や野菜が豊富で米の割合が少ない九州か、大規模畑作農業を行う北海道が候補になっており、新規案件の担当部長からの勧めもあり、まずは十勝を見てみようとなりました。
当時の帯広市農政課長から川西農協青年部へ繋げてもらい、セスナ機にハイパースペクトルカメラを積んだ観測試験を2011年から開始しました。翌年には協力して下さる生産者も10人に増え、5年目には300人までになりました。

――仲間も増えて順調という印象ですが、退職から起業という決断に至った理由を教えて下さい。

(瀬下さん)十勝での実証実験も5年が経過し、社内評価を受けることになりました。会社が望むビジネス規模にすぐに届かないといった判断がされたことで打ち切られることになりました。でも、協力して頂いている生産者や関係者の皆様の存在が私の中で大きく、自分で起業して事業を継続することを決めました。
55歳で早期退職し、衛星が打ち上がっていない段階でアメリカの民間地球観測会社プラネット社 (現在190機の衛星が軌道上にあり、日々、地球の画像を撮影している。)と契約を締結しました。事前に契約することで打ち上げ前から関係先とデータ処理について確認でき、打ち上げ後スムーズにデータを活用できたことが利点でしたね。
起業後は、嬉しいことに十勝の生産者から網走の生産者へ取り組みが紹介され、オホーツク管内のJA関係者に対してセミナー実施するに至りました。そのおかげで参加した農業指導士から農協理事を通してオホーツク管内に急速にサービスが広がっていきました。人を通してサービスが広がっていくのを目の当たりにして、改めて生産者が持つ横の繋がりの有難さを実感しました。当社で提供するサービスはスマホだけで完結するので、初期導入費用を低く抑えることができます。この点も受け入れられた要因の一つだと考えています。

インターフェースの画像。導入エリアは口コミで拡大

自然相手は農業と同じ!相手にどう合わせていくのか!

――今後変化し続ける農業に対して、御社はどのように活動していきますか?

(瀬下さん)リモセンにとって最大の脅威は雲なんです。雲が邪魔して地上の画像が撮れないと、もちろんデータを提供できないのですが、これが衛星の周回頻度と重なると提供できない時間が長くなってしまいます。これについては、ドローンでの撮影による補完を網走の企業と試験しているところです。晴天だからといっても、広大な面積に対してカバー率が低いこともあります。観測幅は24キロメートルなんですが、周期によっては観測されない日もあります。
また、域内企業同士というところでは帯広市の農業情報設計社さんとの共同開発で「AgriBus-Web」上に新たな機能として「生育マップ」を追加して頂くことになりました。自動操舵を行っているときは、ハンドルを握る必要がないんです。つまり肥料散布機の開閉操作に集中できるので、高額な機械を保有していなくても生育マップを見ながら手動で可変施肥することができます。これからも必要な資源を持ち寄って、より生産に貢献するといったことも必要に応じて実施していくつもりです。

――未来に向けて、農業を基幹産業とする地域で暮らす我々に、どんなことが求められているのでしょうか?

(瀬下さん)まずは、生育の変化のデータを日々見ながら行う営農が、一つのインフラとして定着すればいいと考えています。大規模に展開されているからこそ、リモセンでまだまだ最大化できる余地があると思っています。資材高騰などの外的要因など、以前より大規模農業の中でも正確な投資を畑にしていくことが求められていますよね。
 次に、北海道で作っている農産物は大多数が本州で消費されています。大規模農業がさらに精緻で高収益化したものになって、生産地でより多くの地元の方たちに食べてもらえるようになってほしいですね。まずは生産地に住む私たちが、より一層道産や十勝産食材を購入することから地元農業に関わっていけたらいいと思います。

宇宙からのデータによる営農で大規模農業の最大化につなげたいと語る

---『私は気づいたんです。すべては決められていて、私たちにはそれを変えることができないと主張する人でさえ、道を渡る前には左右を確認することを』イギリスの宇宙論研究者として、ブラックホールの蒸発などの研究で有名なスティーヴン・ホーキング氏の言葉です。
抗う術のない気象に対して少しでも順応できるよう遠い宇宙から地上を観測し、生育や土壌の現状を読み解いていくさまは、運命に立ち向かう挑戦者という印象を持ちました。そして、大規模農業だからこそ宇宙と交わることによって最大化できる余地があると実感させられました。これからも北海道の農業と宇宙を結ぶ瀬下さんの活動を応援していきます!

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スペースアグリ株式会社

協力

帯広市経済部経済企画課、フードバレーとかち推進協議会

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